温経湯の効果と副作用|皮膚科医が解説
- ✓ 温経湯は月経不順、冷え性、手足のほてり、口唇乾燥などに用いられる漢方薬です。
- ✓ 血行促進、ホルモン調節、抗炎症作用など複数の機序で症状改善を目指します。
- ✓ 重大な副作用は稀ですが、偽アルドステロン症やミオパチーに注意が必要です。
温経湯(ウンケイトウ)とは?その定義と位置づけ

温経湯(ウンケイトウ)は、漢方医学で「血(けつ)の道症」や「お血(おけつ)」と呼ばれる状態、特に女性の月経周期に関連する不調や冷え、乾燥などの症状に用いられる漢方薬です。当院の皮膚科外来では、特に手足のほてりや口唇の乾燥を伴う患者さまに対して、全身状態の改善を目的として処方する機会があります。伝統的に、冷えや血行不良が原因と考えられる症状に対して、体を温め、血の巡りを改善することで効果を発揮すると考えられています。
- 血の道症
- 女性ホルモンの変動に伴い現れる精神神経症状および身体症状の総称。月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のライフステージで起こる様々な不調を指します。
- お血(おけつ)
- 漢方医学における概念で、血行不良や血の滞りを指します。様々な病態の原因となると考えられています。
温経湯は、以下の12種類の生薬から構成されています[5]。
- 半夏(ハンゲ)
- 麦門冬(バクモンドウ)
- 当帰(トウキ)
- 川芎(センキュウ)
- 芍薬(シャクヤク)
- 人参(ニンジン)
- 桂皮(ケイヒ)
- 牡丹皮(ボタンピ)
- 甘草(カンゾウ)
- 生姜(ショウキョウ)
- 呉茱萸(ゴシュユ)
- 阿膠(アキョウ)
これらの生薬が複合的に作用し、冷えの改善、血行促進、乾燥症状の緩和、月経周期の調整などに寄与すると考えられています。特に、当帰や川芎は血行促進作用、牡丹皮は抗炎症作用、麦門冬や阿膠は潤いを補う作用を持つとされます。
温経湯はどのような効果が期待できる?
温経湯は、比較的体力は中程度以下で、手足がほてり、唇が乾燥するような方に適応するとされています。主な効能・効果としては、月経不順、月経困難、帯下、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手足のほてり、口唇乾燥などが挙げられます[5]。当院では、特に冬場に手足の冷えやしもやけ、乾燥による皮膚トラブルを訴える患者さまに温経湯を処方することがあります。実際の診察では、患者さまから「手足が温かくなった」「唇の乾燥が和らいだ」といったフィードバックをいただくことが多いです。
温経湯の主な薬理作用
温経湯の薬理作用は多岐にわたり、複数の生薬成分が相互に作用することで効果を発揮します。
- 血行促進作用: 当帰、川芎、桂皮などが血管を拡張させ、血流を改善することで、手足の冷えやほてりを緩和すると考えられています。
- ホルモン調節作用: 卵胞刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)の分泌を促進する作用が示唆されており[1]、排卵障害を持つ女性の治療に有用である可能性が報告されています[2]。また、卵巣顆粒膜細胞の機能を刺激する可能性も示されています[4]。
- 抗炎症・免疫調節作用: 牡丹皮や甘草などが持つ抗炎症作用や、サイトカイン産生を刺激する作用[3]により、湿疹・皮膚炎などの炎症性疾患にも効果が期待されます。
- 保湿・潤い補給作用: 麦門冬や阿膠は、体内の潤いを補うことで、口唇の乾燥や皮膚の乾燥症状の改善に寄与すると考えられています。
これらの作用により、温経湯は単一の症状だけでなく、全身のバランスを整えることで様々な不調の改善を目指します。皮膚科の日常診療では、乾燥性湿疹やアトピー性皮膚炎の患者さまで、特に冷えを訴える方への補助療法として温経湯を検討することがあります。外来で温経湯を使用した経験では、冷えの改善や乾燥症状の緩和に数週間から数ヶ月で効果を実感される方が多い印象です。
温経湯の正しい使い方と注意点

温経湯は、その効果を最大限に引き出し、かつ安全に使用するために、正しい用法・用量を守ることが重要です。また、特定の患者さまには注意が必要な場合があります。
用法・用量
ツムラ温経湯エキス顆粒(医療用)の場合、通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与します。年齢、体重、症状により適宜増減されます[5]。当院では、患者さまの症状の程度や体質、他の薬剤との併用状況などを考慮して、用法・用量を調整しています。特に、胃腸が弱い方には食後の服用を指導するなど、個別の状況に合わせたアドバイスを心がけています。
漢方薬は個人の体質や症状によって効果や副作用の発現が異なります。自己判断で服用せず、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
使用上の注意
- 妊婦・授乳婦: 妊娠中の安全性は確立されていません。妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。授乳中の女性への投与については、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討する必要があります[5]。
- 小児: 小児への投与経験が少ないため、慎重に投与する必要があります[5]。
- 高齢者: 一般に生理機能が低下しているため、減量するなど注意が必要です[5]。
- 相互作用: 他の漢方薬や西洋薬との併用により、効果が増強されたり、副作用のリスクが高まったりする可能性があります。特に、甘草を含む他の漢方薬との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高めるため注意が必要です。
- アレルギー: 構成生薬に対して過敏症の既往歴がある場合は使用できません。
実際の処方では、患者さまの既往歴、併用薬、アレルギーの有無を詳細に問診で確認し、安全性を最優先しています。特に、過去に漢方薬で体調を崩した経験がある方には、より慎重に説明を行い、少量からの開始を検討することもあります。
温経湯の副作用とその頻度
温経湯は比較的安全性の高い漢方薬ですが、副作用が全くないわけではありません。重大な副作用と、その他の副作用に分けて説明します[5]。
重大な副作用
頻度は不明ですが、以下の重大な副作用が報告されています。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
- 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム貯留、体液貯留、浮腫、体重増加などの症状が現れることがあります。甘草の大量摂取や長期連用により発現しやすくなります。
- ミオパチー: 偽アルドステロン症の結果として、脱力感、こむら返り、四肢麻痺などの症状が現れることがあります。
これらの副作用は稀ですが、特に高齢者や他の薬剤を併用している患者さまでは注意が必要です。当院では、定期的な血液検査で電解質バランスを確認するなど、慎重なモニタリングを行っています。患者さまには、むくみや手足のしびれ、だるさなどの異常を感じたらすぐに相談するよう指導しています。
その他の副作用
頻度は不明ですが、以下の副作用が報告されています。
- 消化器症状: 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢など。
- 皮膚症状: 発疹、蕁麻疹など。
これらの症状が現れた場合も、医師や薬剤師に相談してください。多くの場合、服用量の調整や一時的な中止で改善します。皮膚科の臨床経験上、漢方薬による胃腸症状は、食前ではなく食後に服用することで軽減されるケースも少なくありません。また、発疹などの皮膚症状は、アレルギー反応の可能性もあるため、他の漢方薬への切り替えを検討することもあります。
ジェネリック医薬品について

温経湯は、ツムラから「ツムラ温経湯エキス顆粒(医療用)」として販売されています。漢方製剤においては、複数の製薬会社から同じ処方名の製品が販売されており、これらは一般的に「ジェネリック医薬品」とは少し異なる位置づけになります。西洋薬のジェネリック医薬品は、先発医薬品と全く同じ有効成分を同じ量で含有していますが、漢方製剤の場合は、同じ処方名であっても、各メーカーが生薬の配合比率や抽出方法に独自の工夫を凝らしている場合があります。
| 項目 | 西洋薬のジェネリック | 漢方製剤(他社製品) |
|---|---|---|
| 有効成分 | 先発品と同一 | 生薬の組み合わせは同じだが、配合比や抽出方法が異なる場合がある |
| 品質・効果の同等性 | 生物学的同等性試験で確認 | 同等性の厳密な評価基準は西洋薬とは異なる |
| 価格 | 先発品より安価 | メーカーによって価格が異なる場合がある |
そのため、温経湯に関しても、ツムラ以外のメーカー(例: クラシエ、コタローなど)からも同じ「温経湯」という名称で製品が販売されています。これらは、生薬の品質や製造工程、エキス抽出方法の違いにより、風味や溶けやすさ、体感する効果に個人差が生じる可能性も指摘されています。当院では、主にツムラの温経湯を処方していますが、患者さまによっては他社の製品を希望される場合や、体質に合う合わないがあると感じられる方もいらっしゃいます。その際は、患者さまの声を丁寧に聞き、必要に応じてメーカーの変更も検討することがあります。処方医と相談し、ご自身に合った製品を選ぶことが大切です。
まとめ
温経湯は、冷え性や月経不順、手足のほてり、口唇乾燥など、特に女性に多い様々な不調に対して用いられる漢方薬です。血行促進、ホルモン調節、抗炎症、保湿といった多様な薬理作用により、全身のバランスを整え、症状の改善を目指します。服用にあたっては、用法・用量を守り、重大な副作用である偽アルドステロン症やミオパチー、その他の消化器症状や皮膚症状に注意が必要です。妊娠・授乳中の方、小児、高齢者、他の薬剤を服用中の方は、必ず医師や薬剤師に相談してください。温経湯にはジェネリック医薬品という概念は当てはまりにくいですが、複数のメーカーから同名の製品が販売されており、それぞれ特徴があるため、ご自身に合った製品を医師と相談して選ぶことが重要です。
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よくある質問(FAQ)
- K Tasaka, A Miyake, S Ohtsuka et al.. [Stimulatory effect of a traditional herbal medicine, Unkeito on LH-RH release].. Nihon Sanka Fujinka Gakkai zasshi. 1986. PMID: 3910742
- Takahisa Ushiroyama. Endocrinological actions of Unkei-to, a herbal medicine, and its clinical usefulness in anovulatory and/or infertile women.. Reproductive medicine and biology. 2020. PMID: 29662375. DOI: 10.1046/j.1445-5781.2003.00019.x
- K Koike, Z X Zhang, Y Sakamoto et al.. The herbal medicine unkei-to stimulates cytokine-induced neutrophil chemoattractant production in the pituitary folliculo-stellate-like cell line (TtT/GF).. American journal of reproductive immunology (New York, N.Y. : 1989). 1998. PMID: 9553649. DOI: 10.1111/j.1600-0897.1998.tb00361.x
- Wen-Shu Sun, Atsushi Imai, Keiko Tagami et al.. In vitro stimulation of granulosa cells by a combination of different active ingredients of unkei-to.. The American journal of Chinese medicine. 2005. PMID: 15481646. DOI: 10.1142/S0192415X0400220X
- 温経湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
