加味逍遙散の効果と副作用|皮膚科医が解説する漢方薬
- ✓ 加味逍遙散は、女性の不定愁訴や精神神経症状に用いられる代表的な漢方薬です。
- ✓ 添付文書に記載された副作用は比較的軽度ですが、体質や体調により注意が必要です。
- ✓ 効果を実感するまでには時間を要する場合が多く、継続的な服用が重要となります。
加味逍遙散とは?その特徴と適応疾患

加味逍遙散(カミショウヨウサン)は、漢方医学における「気」や「血」の巡りの乱れ、特に「気鬱(きうつ)」や「血虚(けっきょ)」の状態を改善することを目的とした漢方薬です。精神的なストレスやホルモンバランスの変動に伴う様々な不定愁訴に用いられることが多く、特に女性の健康維持に貢献する生薬として知られています[5]。
この漢方薬は、逍遙散に山梔子(サンシシ)と牡丹皮(ボタンピ)を加えたもので、熱を冷まし、血の滞りを改善する作用が強化されています。構成生薬は、柴胡(サイコ)、芍薬(シャクヤク)、当帰(トウキ)、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、薄荷(ハッカ)、山梔子(サンシシ)、牡丹皮(ボタンピ)の10種類です[5]。これらの生薬が複合的に作用し、自律神経のバランスを整え、精神的な安定をもたらすとされています。当院の皮膚科外来では、更年期障害や月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)に伴う皮膚症状(例えば、ニキビの悪化、かゆみ、肌荒れなど)の患者さまに、西洋薬と併用して加味逍遙散を処方する機会が多いです。特に、精神的な不安定さが皮膚症状に影響していると考えられるケースでは、患者さまから「イライラ感が減り、肌の調子も落ち着いた」というフィードバックをいただくことも少なくありません。
- 気鬱(きうつ)とは
- 漢方医学における概念で、気の巡りが滞り、精神的な抑うつ感、イライラ、胸苦しさ、ため息などの症状が現れる状態を指します。
- 血虚(けっきょ)とは
- 漢方医学における概念で、血が不足している状態を指します。顔色が悪く、めまい、立ちくらみ、動悸、不眠、皮膚の乾燥などの症状が見られることがあります。
どのような症状に効果が期待できる?
加味逍遙散は、以下のような幅広い症状に対して効果が期待できるとされています[5]。
- 更年期障害に伴う精神神経症状(イライラ、不安、不眠など)
- 月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)
- 冷え性、肩こり、疲労感
- 便秘、食欲不振などの消化器症状
- 自律神経失調症による症状
特に、精神的な不安定さが身体症状と結びついている場合に、その効果を発揮しやすい傾向があります。例えば、月経周期に伴う気分の落ち込みやイライラ、不眠といった精神症状に対して、加味逍遙散が有効であったという報告も存在します[1]。また、抗精神病薬によるパーキンソン症状の振戦(ふるえ)に対する効果も示唆されています[2]。近年では、自閉スペクトラム症(ASD)様の行動改善に寄与する可能性も研究されています[3]。実際の診察では、患者さまから「漠然とした不安感やイライラが軽減された」「夜よく眠れるようになった」といった声を聞くことが多く、精神的な安定が身体症状の改善にも繋がることを実感しています。
加味逍遙散の作用機序と期待される効果
加味逍遙散は、複数の生薬の組み合わせにより、多角的なアプローチで症状の改善を目指します。その作用機序は、漢方医学的な「気血水」のバランス調整に基づいています。
漢方医学における作用の考え方
加味逍遙散は、漢方医学の「肝鬱脾虚(かんうつひきょ)」という病態に主に用いられます。これは、ストレスなどによって「肝(かん)」の気の巡りが滞り(肝鬱)、その影響で「脾(ひ)」の働きが低下し、消化吸収や気血の生成がうまくいかなくなる(脾虚)状態を指します。この状態が、イライラ、抑うつ、疲労感、消化器症状、月経不順といった様々な不定愁訴を引き起こすとされます。
- 柴胡(サイコ)・薄荷(ハッカ):気の巡りを改善し、肝鬱を解消する「疏肝解鬱(そかんげうつ)」作用が期待されます。精神的な緊張を和らげ、イライラ感を軽減するのに役立ちます。
- 芍薬(シャクヤク)・当帰(トウキ):血を補い、血の巡りを改善する「養血活血(ようけつかっけつ)」作用があります。月経不順や冷え性、皮膚の乾燥など、血虚に関連する症状の改善に寄与します。
- 茯苓(ブクリョウ)・白朮(ビャクジュツ)・甘草(カンゾウ)・生姜(ショウキョウ):脾の働きを助け、消化吸収を促進し、気血の生成を促す「健脾益気(けんぴえっき)」作用があります。疲労感や食欲不振、むくみなどの改善に繋がります。
- 山梔子(サンシシ)・牡丹皮(ボタンピ):熱を冷まし、炎症を抑える「清熱涼血(せいねつりょうけつ)」作用があります。イライラやほてり、口渇といった「熱」の症状や、皮膚の炎症性疾患の補助治療に用いられます。
これらの生薬が相互に作用し、身体全体のバランスを整えることで、特定の症状だけでなく、全身の不調を改善に導くことが期待されます。当院では、特に皮膚症状が精神的なストレスやホルモンバランスの乱れと密接に関わっている患者さまに対して、加味逍遙散を提案することが多いです。例えば、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹の患者さまで、ストレス時に症状が悪化する傾向がある場合、加味逍遙散の服用によって精神的な安定が得られ、結果として皮膚症状も落ち着くケースを経験しています。皮膚科の臨床経験上、漢方薬の効果発現には個人差が大きいと感じており、患者さまの体質や症状のタイプを詳細に問診し、適切な処方を見極めることが重要です。
科学的な研究による裏付け
近年、加味逍遙散の作用機序に関する科学的な研究も進められています。例えば、月経前不快気分障害(PMDD)に対する加味逍遙散の有効性が、オープンラベルのパイロット研究で示唆されています[1]。また、甲状腺機能亢進症に対する有効性とそのメカニズムについても、システマティックレビューで検討されています[4]。これらの研究は、漢方薬が経験則だけでなく、現代医学的な観点からもその効果が検証されつつあることを示しています。
加味逍遙散の正しい服用方法と注意点

加味逍遙散の効果を最大限に引き出し、安全に服用するためには、正しい服用方法と注意点を理解することが重要です。
用法・用量
ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)の添付文書によると、通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口服用するとされています[5]。年齢、体重、症状により適宜増減されます。食前とは食事の30分〜1時間前、食間とは食事と食事の間(食後2時間程度)を指します。漢方薬は胃に内容物がない状態で服用することで、生薬成分の吸収が良くなると考えられています。
自己判断で服用量や服用回数を変更せず、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。特に、他の薬剤を併用している場合は、相互作用のリスクがあるため、必ず事前に相談が必要です。
服用上の注意点
- 長期服用の場合:長期にわたる服用が必要な場合は、定期的に医師の診察を受け、効果や副作用の有無を確認することが重要です。
- 高齢者への投与:一般に生理機能が低下しているため、減量するなど注意が必要です。
- 妊婦・授乳婦への投与:妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。授乳婦への投与に関する安全性は確立されていません。必ず医師に相談してください。
- 小児への投与:小児への投与に関する安全性は確立されていません。
- アレルギー:過去に漢方薬や生薬でアレルギー反応を起こしたことがある場合は、必ず医師に伝えてください。
実際の処方では、患者さまの生活リズムや食習慣に合わせて、服用タイミングを調整することがあります。例えば、朝食を摂らない方には昼食前と夕食前に、食間が難しい方には食直前や食後少し時間を置いてからなど、柔軟に対応しています。また、当院では加味逍遙散を処方した患者さまから、「飲み忘れてしまうことがある」という相談をよく受けます。そのような場合は、服用回数を減らす、あるいは他の漢方薬への変更を検討するなど、患者さまの継続しやすい方法を一緒に考えています。漢方薬は継続が重要な治療であるため、無理なく続けられるようサポートすることが皮膚科の日常診療では治療のポイントになります。
加味逍遙散の副作用と注意すべき症状
加味逍遙散は比較的安全性の高い漢方薬ですが、体質や体調によっては副作用が現れることがあります。副作用を早期に発見し、適切に対処するためには、その症状を理解しておくことが重要です。
重大な副作用
添付文書には、まれにではありますが、以下の重大な副作用が記載されています[5]。
- 偽アルドステロン症:尿量が減少する、顔や手足がむくむ、まぶたが重くなる、手がこわばる、血圧が高くなる、頭痛などの症状が現れることがあります。甘草の大量摂取や長期服用によって起こる可能性があります。
- ミオパチー:偽アルドステロン症の結果として、脱力感、筋肉痛、四肢のけいれん、麻痺などの症状が現れることがあります。
- 肝機能障害、黄疸:全身倦怠感、食欲不振、発熱、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状が現れることがあります。
これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医師の診察を受けてください。当院では、漢方薬を処方する際に、これらの重大な副作用について患者さまに説明し、特にむくみや倦怠感、黄疸の兆候がないか注意深く観察するよう指導しています。特に高齢の患者さまや、複数の薬剤を服用されている患者さまには、より慎重な経過観察が必要です。
その他の副作用
比較的頻度の高い副作用としては、以下のような症状が報告されています[5]。
| 部位 | 症状 |
|---|---|
| 消化器 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢、腹痛など |
| 皮膚 | 発疹、蕁麻疹など |
これらの症状も、服用を継続するかどうかを判断するために医師に相談することが重要です。特に、皮膚症状を主訴として来院された患者さまが加味逍遙散を服用し、新たな皮膚症状(発疹や蕁麻疹)が出現した場合は、それが薬剤によるものか、元の疾患の悪化なのかを慎重に見極める必要があります。実際の診察では、患者さまから「胃の調子が悪い」「少しお腹がゆるくなった」という訴えを聞くことがありますが、多くの場合、服用を続けるうちに症状が軽減するか、服用量を調整することで対応可能です。しかし、症状が続く場合や悪化する場合は、他の漢方薬への変更や、西洋薬との併用を検討します。
相互作用に注意が必要な薬剤
加味逍遙散に含まれる甘草は、他の漢方薬やグリチルリチン酸製剤と併用すると、偽アルドステロン症のリスクが高まる可能性があります[5]。そのため、現在服用している全ての薬剤を医師や薬剤師に伝えることが非常に重要です。
加味逍遙散に関する患者さまからのご質問

加味逍遙散とジェネリック医薬品について
加味逍遙散は、ツムラから「ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)」として製造販売されています。漢方製剤には、一般的に「先発医薬品」という概念は存在せず、各メーカーが独自の製法や品質管理基準に基づいて製造しています。そのため、厳密な意味でのジェネリック医薬品(後発医薬品)という区分けはされていません。
漢方製剤における「ジェネリック」の考え方
西洋薬の場合、先発医薬品の特許期間が終了すると、同じ有効成分・同じ量・同じ効能効果を持つジェネリック医薬品が複数のメーカーから発売されます。しかし、漢方製剤は生薬の組み合わせであり、生薬の品質、抽出方法、製剤化の技術などによって製品の特性が異なる場合があります。そのため、全く同じ成分組成を持つ「ジェネリック」というよりは、各メーカーが製造する「同等品」と捉えるのが適切です。例えば、ツムラ以外のメーカーからも加味逍遙散の名称で製品が販売されており、これらは一般的に「同等品」として扱われます。
当院では、患者さまの症状や体質、過去の服用経験などを考慮し、最適な漢方製剤を選択しています。特定のメーカーの製品にこだわりがある場合は、遠慮なくご相談ください。
まとめ
加味逍遙散は、女性の不定愁訴や精神神経症状、特に更年期障害や月経前症候群に伴うイライラ、不安、不眠、冷え性などに広く用いられる漢方薬です。気の巡りを整え、血を補い、熱を冷ますといった多角的な作用により、身体全体のバランスを改善し、症状の緩和を目指します。効果を実感するまでには個人差があり、数週間から数ヶ月の継続的な服用が必要となることが多いです。
比較的安全性の高い薬剤ですが、まれに偽アルドステロン症や肝機能障害といった重大な副作用、あるいは消化器症状や皮膚症状などの一般的な副作用が現れることがあります。服用に際しては、用法・用量を守り、体調の変化に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかに医師や薬剤師に相談することが重要です。当院では、患者さま一人ひとりの体質や症状を丁寧に診察し、西洋薬との併用も含めて最適な治療法を提案しています。加味逍遙散に関するご質問やご不安があれば、いつでもお気軽にご相談ください。
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よくある質問(FAQ)
- Kazuo Yamada, Shigenobu Kanba. Effectiveness of kamishoyosan for premenstrual dysphoric disorder: open-labeled pilot study.. Psychiatry and clinical neurosciences. 2007. PMID: 17472603. DOI: 10.1111/j.1440-1819.2007.01649.x
- T Ishikawa, T Funahashi, J Kudo. Effectiveness of the Kampo kami-shoyo-san (TJ-24) for tremor of antipsychotic-induced parkinsonism.. Psychiatry and clinical neurosciences. 2001. PMID: 11043809. DOI: 10.1046/j.1440-1819.2000.00756.x
- Qing-Yun Guo, Ken Ebihara, Takafumi Shimodaira et al.. Kami-shoyo-san improves ASD-like behaviors caused by decreasing allopregnanolone biosynthesis in an SKF mouse model of autism.. PloS one. 2019. PMID: 30703109. DOI: 10.1371/journal.pone.0211266
- Wenxin Ma, Xiaowen Zhang, Ruotong Zhao et al.. Effectiveness and potential mechanism of Jiawei-Xiaoyao-San for hyperthyroidism: a systematic review.. Frontiers in endocrinology. 2023. PMID: 37780612. DOI: 10.3389/fendo.2023.1241962
- 加味逍遙散 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
