十全大補湯の効果と副作用|皮膚科医が解説
- ✓ 十全大補湯は、気血両虚(気力・体力・血行不足)の改善に用いられる漢方薬です。
- ✓ 術後の体力低下、疲労倦怠、貧血、食欲不振など、幅広い症状に効果が期待されます。
- ✓ 比較的副作用が少ないとされますが、胃腸症状やアレルギー反応に注意が必要です。
十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)とは?その特徴と効果

十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は、漢方医学における「気血両虚(きけつりょうきょ)」の状態、すなわち気力・体力・血行が不足している状態を改善することを目的とした漢方薬です。全身の機能低下を補い、体力を回復させる効果が期待されます。添付文書によれば、病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血などの症状に用いられます[5]。
この漢方薬は、人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、川芎(センキュウ)、桂皮(ケイヒ)、甘草(カンゾウ)の10種類の生薬から構成されており、「十全(完璧な)」に「大補(大きく補う)」という意味が込められています。
- 気血両虚(きけつりょうきょ)
- 漢方医学における体質や病態の一つで、「気」(生命活動のエネルギー)と「血」(血液や栄養物質)の両方が不足している状態を指します。疲労感、倦怠感、顔色の悪さ、めまい、冷え、貧血症状などが現れることが多いです。
当院の皮膚科外来では、湿疹や皮膚炎が慢性化して体力が落ちている方、あるいは手術後の回復期で全身の倦怠感が強い方などから、体質改善や体力回復の相談を受けることが多いです。特に、皮膚疾患の治療と並行して全身状態を改善したいと希望される患者さまに、十全大補湯を処方するケースがあります。例えば、アトピー性皮膚炎で長期間ステロイド外用薬を使用している患者さまの中には、全身の倦怠感や冷えを訴える方がいらっしゃり、十全大補湯を併用することで、体調が安定し、皮膚の回復も促進される印象を受けることがあります。
十全大補湯の薬理作用:なぜ効果があるのか?
十全大補湯は、その構成生薬の組み合わせにより、多岐にわたる薬理作用を持つことが報告されています。主な作用としては、免疫賦活作用、造血作用、抗疲労作用、抗腫瘍作用の補助などが挙げられます。
- 免疫賦活作用: 免疫細胞の活性化を促し、病気に対する抵抗力を高める効果が期待されます。小児の反復性中耳炎に対する効果を評価した研究では、十全大補湯の投与が免疫機能の改善に寄与する可能性が示唆されています[2]。
- 造血作用: 貧血症状の改善に寄与する可能性があります。特に、抗がん剤による骨髄抑制(造血機能の低下)を軽減する効果が動物実験や臨床研究で報告されています[3]。
- 抗疲労作用: 全身の倦怠感や疲労感の軽減に役立ちます。抗がん剤治療に伴う倦怠感の改善にも用いられることがあります[3]。
- 抗炎症作用・血行促進作用: 手足の冷えやしもやけなど、血行不良に伴う症状の改善にも期待が持たれています[4]。
これらの作用は、個々の生薬が持つ薬効が複合的に働くことで発揮されると考えられています。例えば、人参や黄耆は気を補い、当帰や地黄は血を補う代表的な生薬です。これらの生薬がバランス良く配合されることで、全身の調和を整え、自然治癒力を高める効果が期待されます。
十全大補湯の適応症と用法・用量:どのように使うのが適切か?
十全大補湯は、特定の病名ではなく、患者さまの体質や症状に合わせて処方されることが多い漢方薬です。添付文書に記載されている適応症は多岐にわたりますが、共通しているのは「気血両虚」の状態、すなわち体力や気力の低下が見られる場合です[5]。
主な適応症
- 病後の体力低下・疲労倦怠: 手術後や病気からの回復期で、なかなか体力が戻らない、疲れやすいといった症状に用いられます。抗がん剤治療に伴う倦怠感や骨髄抑制の軽減にも効果が期待されることがあります[3]。
- 貧血: 鉄欠乏性貧血など、西洋医学的な治療では改善しにくい貧血症状や、貧血に伴う全身倦怠感に用いられることがあります。
- 食欲不振: 胃腸機能が低下し、食欲がない、食事が進まないといった場合に、消化吸収を助け、食欲を増進させる効果が期待されます。
- ねあせ・手足の冷え: 自律神経の乱れや血行不良からくる症状に対して、全身のバランスを整えることで改善を目指します。手足の冷えに対する効果を示唆する研究もあります[4]。
- その他: 慢性的な湿疹や皮膚炎で体力が消耗している場合、あるいは脱毛症で全身の栄養状態を改善したい場合など、皮膚科領域でも補助的に処方されることがあります。
標準的な用法・用量
ツムラ十全大補湯エキス顆粒(医療用)の添付文書によると、通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与するとされています。年齢や体重、症状によって適宜増減が可能です[6]。小児への投与に関しては、医師の判断のもと、体重や年齢に応じた減量が行われます。
漢方薬は、西洋薬のように即効性があるわけではなく、体質改善を目指すため、ある程度の期間継続して服用することが重要です。効果を実感するまでには数週間から数ヶ月かかることもあります。また、自己判断で服用を中止せず、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
実際の診察では、患者さまから「いつ飲めばいいですか?」と質問されることがよくあります。食前や食間が推奨されますが、飲み忘れを防ぐために、食後でも構わないとお伝えすることもあります。大切なのは、毎日継続して服用することです。当院では、特に胃腸が弱い患者さまには、少量から開始し、徐々に量を増やすなど、個々の体質に合わせた用法を調整して処方しています。また、効果の実感には個人差が大きく、外来で十全大補湯を使用した経験では、倦怠感の軽減や食欲増進といった効果を2〜4週間程度で実感される方が多い印象です。
十全大補湯の副作用と注意点:安全に使用するために

十全大補湯は比較的安全性の高い漢方薬とされていますが、全く副作用がないわけではありません。服用する際には、その可能性を理解し、異常を感じたらすぐに医療機関に相談することが重要です[5]。
重大な副作用
頻度は稀ですが、以下のような重大な副作用が報告されています。
- 偽アルドステロン症: 尿量が減少する、顔や手足がむくむ、まぶたが重くなる、手がこわばる、血圧が高くなるなどの症状が現れることがあります。甘草(カンゾウ)という生薬が原因となることがあります。
- ミオパチー: 脱力感、手足のつっぱりや痛み、こわばり、麻痺などの症状が現れることがあります。偽アルドステロン症の進行によって起こることがあります。
- 肝機能障害、黄疸: 全身倦怠感、食欲不振、発熱、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状が現れることがあります。
その他の副作用
比較的頻度が高いのは、消化器系の症状です。
- 消化器症状: 胃部不快感、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など。特に胃腸が弱い方は注意が必要です。
- 皮膚症状: 発疹、かゆみなど。アレルギー反応として現れることがあります。
服用上の注意点
- 持病のある方: 高血圧、心臓病、腎臓病のある方、むくみやすい方は、偽アルドステロン症のリスクがあるため、医師に必ず申告してください。
- 他の薬との併用: 他の漢方薬や西洋薬を服用している場合は、相互作用の可能性があるため、医師や薬剤師に相談してください。特に甘草を含む他の漢方薬との併用は、甘草の過剰摂取につながり、偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があります。
- アレルギー体質の方: 過去に薬でアレルギー症状を起こしたことがある方は、事前に医師に伝えてください。
- 妊娠・授乳中の方: 妊娠中または妊娠の可能性のある方、授乳中の方は、服用前に医師に相談してください。
皮膚科の臨床経験上、漢方薬の副作用で最も多いのは胃腸症状です。特に、空腹時に服用すると胃部不快感を訴える患者さまがいらっしゃるため、食後に服用を調整したり、少量から開始したりすることが有効です。また、当院では、患者さまが服用中に少しでも体調の変化を感じた場合は、すぐに連絡していただくよう指導しています。特にむくみや倦怠感の悪化は、重大な副作用の初期症状である可能性もあるため、注意深く経過を観察しています。
ジェネリック医薬品とツムラ十全大補湯:違いはある?
漢方薬にもジェネリック医薬品は存在します。ツムラ十全大補湯(ツムラ48)にも、複数のメーカーから同じ処方内容のジェネリック医薬品が販売されています。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同等の有効成分、効能・効果、用法・用量を持つと国によって認められた医薬品です。
ジェネリック医薬品の選択肢
十全大補湯のジェネリック医薬品としては、コタロー、クラシエ、オースギ、三和などのメーカーから製造販売されています。これらは「十全大補湯エキス顆粒」として、ツムラ製品と同様に医療機関で処方されます。
| 項目 | 先発品(ツムラ十全大補湯) | ジェネリック医薬品(各社十全大補湯) |
|---|---|---|
| 有効成分 | 10種類の生薬 | 10種類の生薬(同等) |
| 効能・効果 | 病後の体力低下、疲労倦怠、貧血など | 同等 |
| 用法・用量 | 通常1日7.5gを2〜3回に分割 | 同等 |
| 薬価(保険適用) | 基準薬価 | 先発品より安価 |
| 添加物・風味 | 各メーカーによる違いあり | 各メーカーによる違いあり |
ジェネリック医薬品を選ぶメリット・デメリット
- メリット: 最大のメリットは薬価が安価である点です。これにより、患者さまの医療費負担を軽減できます。
- デメリット: 漢方薬の場合、生薬の産地や抽出方法、添加物などがメーカーによって異なることがあります。そのため、風味や溶けやすさ、体感にわずかな違いを感じる患者さまもいらっしゃいます。ただし、有効性や安全性に大きな差はないとされています。
当院では、患者さまの希望に応じてジェネリック医薬品を選択することが可能です。特に長期服用が必要な患者さまには、経済的負担を考慮してジェネリック医薬品を提案することもあります。実際のところ、多くの患者さまは先発品とジェネリック品で効果や副作用に大きな違いを感じることは少ないですが、「以前飲んでいたものと味が違う」というフィードバックをいただくこともあります。その際は、再度先発品に戻すなど、患者さまの快適な服用を最優先に考えています。
十全大補湯の服用が推奨されるケースとそうでないケース

十全大補湯は、体力や気力の低下が顕著な「虚証(きょしょう)」の患者さまに適した漢方薬です。しかし、全ての症状や体質に合うわけではありません。適切な診断のもとで服用することが重要です。
服用が推奨されるケース
- 虚弱体質、病後の回復期: 体力が落ち、倦怠感が強く、食欲不振や貧血傾向がある方。
- 冷え性、手足の冷えが強い方: 血行不良による冷えや、それに伴う不調がある方。
- 慢性的な疲労感、気力低下: ストレスや過労で、なかなか疲れが取れない、やる気が出ないといった方。
- 免疫力低下が疑われる方: 風邪をひきやすい、病気にかかりやすいなど、免疫機能の低下が考えられる方。
服用に注意が必要、または推奨されないケース
- 体力があり、体力充実している「実証(じっしょう)」の方: 漢方薬は体質に合わせて選ぶため、実証の方には不向きな場合があります。症状が悪化する可能性もあります。
- 急性期の炎症や感染症: 高熱や強い炎症がある急性期の症状には、十全大補湯よりも、熱を冷まし炎症を抑える漢方薬が適していることが多いです。
- 胃腸の調子が非常に悪い方: 嘔吐や激しい下痢など、胃腸の症状が強い場合は、服用によりさらに悪化する可能性があります。
- むくみや高血圧が顕著な方: 偽アルドステロン症のリスクがあるため、特に注意が必要です。
皮膚科の日常診療では、患者さまの訴えだけでなく、舌の状態(舌診)や脈の状態(脈診)、お腹の触診(腹診)といった漢方的な診察も参考にしながら、十全大補湯がその患者さまの体質に合っているかを判断します。例えば、舌が白っぽく苔が薄い、脈が弱く沈んでいる、お腹が軟らかいといった所見は、虚証の傾向を示唆することが多いです。当院では、患者さまの全身状態を総合的に評価し、西洋薬と漢方薬のどちらが、あるいは両方を併用するべきかを慎重に検討しています。特に、皮膚の乾燥やバリア機能低下が顕著で、全身的な疲労を訴える患者さまには、十全大補湯が有効な選択肢となることがあります。
まとめ
十全大補湯は、気力・体力・血行が不足した「気血両虚」の状態を改善し、全身の機能を高めることを目的とした漢方薬です。病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、貧血、手足の冷えなど、幅広い症状に効果が期待されます。免疫賦活作用や造血作用など、科学的な研究によってその薬理作用も一部解明されています。服用に際しては、添付文書に記載された用法・用量を守り、胃腸症状やアレルギー反応、稀に発生する重大な副作用(偽アルドステロン症など)に注意が必要です。ジェネリック医薬品も存在し、薬価を抑える選択肢もあります。自身の体質や症状に合っているか、他の薬との併用は問題ないかなど、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な指導のもとで服用することが大切です。
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よくある質問(FAQ)
- Yuta Shinohara, Yoko Nishino, Megumi Yamanaka et al.. Efficacy of Juzen-taiho-to against vincristine-induced toxicity in dogs.. The Journal of veterinary medical science. 2020. PMID: 31645506. DOI: 10.1292/jvms.19-0401
- Yumiko Maruyama, Shigeru Hoshida, Mitsuru Furukawa et al.. Effects of Japanese herbal medicine, Juzen-taiho-to, in otitis-prone children–a preliminary study.. Acta oto-laryngologica. 2009. PMID: 18608005. DOI: 10.1080/00016480801998838
- Kazuo Ogawa, Tatsushi Omatsu, Chinami Matsumoto et al.. Protective effect of the Japanese traditional medicine juzentaihoto on myelosuppression induced by the anticancer drug TS-1 and identification of a potential biomarker of this effect.. BMC complementary and alternative medicine. 2013. PMID: 22876791. DOI: 10.1186/1472-6882-12-118
- Youme Ko, Seung-Ho Sun, In-Sik Han et al.. The efficacy and safety of Sipjeondaebo-tang in Korean patients with cold hypersensitivity in the hands and feet: a protocol for a pilot, randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel-group clinical trial.. Trials. 2019. PMID: 30987667. DOI: 10.1186/s13063-019-3286-7
- 十全大補湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
- ツムラ48 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
