- ✓ 茯苓飲は胃腸虚弱で、心窩部のつかえや吐き気、食欲不振などに用いられる漢方薬です。
- ✓ 添付文書に記載された用法・用量を守り、食前または食間に水またはぬるま湯で服用します。
- ✓ 重大な副作用は稀ですが、偽アルドステロン症やミオパチーに注意が必要です。
茯苓飲(ブクリョウイン)は、胃腸が弱く、心窩部(みぞおち)のつかえや吐き気、食欲不振などの症状がある方に用いられる漢方薬です。特に、冷えやストレスが胃腸に影響しやすい体質の方に適しています。当院の皮膚科外来では、皮膚疾患の治療中に胃腸症状を訴える患者さまに対し、全身状態の改善を目的として茯苓飲を処方することがあります。
茯苓飲(ツムラ69)とは?その特徴と効果

茯苓飲は、胃腸機能の低下によって生じる様々な症状を改善する漢方薬です。胃に停滞した水分(水湿)を取り除き、胃の働きを整えることで、心窩部のつかえ感、吐き気、食欲不振、胃もたれ、げっぷなどの症状を和らげる効果が期待されます[1]。構成生薬には、茯苓(ブクリョウ)、蒼朮(ソウジュツ)、人参(ニンジン)、陳皮(チンピ)、枳実(キジツ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)などが含まれており、これらが協力して胃腸の機能を調整します。
茯苓飲は、胃腸が虚弱で体力が中程度以下の方に特に適しているとされています。例えば、慢性的な胃炎や胃アトニー、食道炎などで胃の不快感を訴える患者さまに処方されることが多いです。当院では、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などの慢性的な皮膚疾患を持つ患者さまが、治療のストレスや体質的な要因から胃腸の不調を訴える際に、茯苓飲を補助的に用いることがあります。実際の診察では、患者さまから「胃が重くて食欲がない」「食べるとすぐ胃もたれする」といった相談を受けることがよくあります。このような場合、茯苓飲を処方することで、胃腸症状が改善し、全体的な体調が上向きになることで、皮膚症状の改善にも良い影響を与えるケースを経験しています。
- 水湿(すいしつ)
- 漢方医学における概念で、体内に停滞した余分な水分や病的な代謝産物を指します。これが胃腸に停滞すると、胃もたれ、吐き気、むくみなどの症状を引き起こすとされます。
- 胃アトニー
- 胃の筋肉の緊張が低下し、食物の消化・排出機能が弱まる状態を指します。胃もたれや食欲不振の原因となることがあります。
茯苓飲の主要な効果
- 胃もたれ・心窩部つかえ感の改善: 胃に溜まった余分な水分や未消化物を排出し、胃の動きを活発にすることで、不快なつかえ感を軽減します。
- 吐き気・嘔吐の抑制: 胃の機能を正常化し、消化管の動きを整えることで、吐き気を抑えます。
- 食欲不振の改善: 胃腸の働きを良くし、消化吸収能力を高めることで、食欲を増進させます。
- げっぷ・胸やけの軽減: 胃酸の逆流や胃の停滞によって起こる症状を和らげます。
これらの効果は、胃腸の機能が低下している状態、特に冷えやストレスが関与している場合に顕著に現れる傾向があります。漢方医学では、個々の体質や症状の現れ方(証)に合わせて処方を選択するため、茯苓飲が全ての方に合うわけではありません。専門医の診断に基づき、適切な漢方薬を選択することが重要です。
茯苓飲の正しい飲み方と服用期間
茯苓飲は、添付文書に記載された用法・用量を守って服用することが重要です。一般的に、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に水またはぬるま湯で服用します[1]。
用法・用量
- 成人: 1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に服用。
- 小児: 体重や年齢に応じて減量して服用します。医師の指示に従ってください。
食前とは食事の約30分〜1時間前、食間とは食事と食事の間(食後約2時間)を指します。胃の中に食物がない状態で服用することで、生薬の成分が吸収されやすくなると考えられています。ただし、胃腸が特に弱い方や、食前・食間の服用で不快感がある場合は、食後に服用することも可能です。処方する際は、患者さまのライフスタイルや胃腸の状態を考慮して、最適な用法を選択するようアドバイスしています。
服用期間の目安
茯苓飲の効果が現れるまでの期間や、服用を続ける期間は、症状の程度や体質によって大きく異なります。一般的には、数日から数週間で効果を実感し始めることが多いですが、慢性的な症状の場合は数ヶ月間の服用が必要となることもあります。当院では茯苓飲を処方した患者さまから、「飲み始めて1週間くらいで胃の重さが楽になった」「食欲が少し出てきた」というフィードバックをいただくことが多い印象です。
効果を実感しても、自己判断で服用を中止せず、必ず医師の指示に従ってください。症状が改善しても、体質改善のためにしばらく継続が必要な場合もあります。また、服用中に何か気になる症状が現れた場合は、速やかに医師または薬剤師に相談してください。
漢方薬は、西洋薬とは異なる作用機序を持つため、効果の発現や副作用の現れ方も個人差があります。服用中は体調の変化に注意し、不明な点があれば必ず専門家に相談しましょう。
茯苓飲の副作用と注意すべき点

茯苓飲は比較的副作用の少ない漢方薬ですが、全くないわけではありません。特に、体質に合わない場合や、特定の基礎疾患がある場合には注意が必要です。添付文書には、重大な副作用とその他の副作用が記載されています[1]。
重大な副作用
頻度は極めて稀ですが、以下の重大な副作用が報告されています。
- 偽アルドステロン症: 尿量の減少、顔や手足のむくみ、まぶたが重くなる、血圧上昇、頭痛などの症状が現れることがあります。これは、配合生薬である甘草の過剰摂取や長期服用によって引き起こされる可能性があります。
- ミオパチー: 脱力感、手足のしびれ、こわばり、筋肉痛などが現れることがあります。偽アルドステロン症の進行により、低カリウム血症を伴って発症することがあります。
これらの症状に気づいた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。皮膚科の日常診療では、特に高齢の患者さまや、複数の薬剤を併用している患者さまに対しては、これらの副作用のリスクを念頭に置き、定期的な血圧測定や血液検査(カリウム値など)でフォローアップを行うことが治療のポイントになります。
その他の副作用
比較的頻度は低いですが、以下のような症状が現れることがあります。
- 消化器症状: 胃部不快感、下痢、悪心、嘔吐など。
- 皮膚症状: 発疹、かゆみなど。
これらの症状が現れた場合も、医師や薬剤師に相談してください。特に皮膚症状は、他の薬剤との鑑別も必要となるため、皮膚科医にご相談いただくのが適切です。当院では、漢方薬による皮膚症状の出現は稀ですが、もし現れた場合は速やかに服用中止を指示し、必要に応じて対症療法を行います。また、患者さまが「体質に合わない気がする」とおっしゃる場合は、無理に継続せず、他の漢方薬への切り替えも検討します。
服用上の注意点
- アレルギー体質の方: 過去に漢方薬や特定の生薬でアレルギー症状を起こしたことがある方は、服用前に医師に伝えてください。
- 妊娠・授乳中の方: 妊娠中または妊娠している可能性のある方、授乳中の方は、服用前に必ず医師に相談してください。
- 他の薬剤との併用: 他の漢方薬や西洋薬を服用している場合は、相互作用の可能性があるため、必ず医師または薬剤師に伝えてください。特に甘草を含む他の漢方薬との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があります。
- 高齢者: 一般に生理機能が低下しているため、減量するなど注意して服用する必要があります。
ジェネリック医薬品について
茯苓飲は、医療用漢方製剤としてツムラから「ツムラ茯苓飲エキス顆粒(医療用)」として製造・販売されています[1]。漢方製剤は、生薬の配合や製造方法が各メーカーで異なる場合があり、厳密な意味でのジェネリック医薬品(後発医薬品)という概念は西洋薬ほど明確ではありません。
しかし、ツムラ以外のメーカーからも「茯苓飲」として同様の処方で製造・販売されている漢方製剤が存在します。これらは「同等性のある医薬品」として扱われ、保険適用も可能です。例えば、コタロー、クラシエ、オースギなどのメーカーからも茯苓飲が提供されています。
| 項目 | ツムラ茯苓飲 | 他社製茯苓飲(例: コタロー、クラシエ) |
|---|---|---|
| 製造元 | 株式会社ツムラ | 小太郎漢方製薬、クラシエ薬品など |
| 製品名 | ツムラ茯苓飲エキス顆粒(医療用) | コタロー茯苓飲エキス細粒、クラシエ茯苓飲エキス顆粒など |
| 処方内容 | 茯苓飲の構成生薬に準拠 | 茯苓飲の構成生薬に準拠 |
| 保険適用 | あり | あり |
| 剤形 | 顆粒 | 顆粒、細粒など |
どのメーカーの製品を選ぶかは、医師や薬剤師と相談して決めることができます。一般的には、効果に大きな違いはないとされていますが、味や飲みやすさ、添加物の有無などで個人差を感じる方もいらっしゃいます。当院では、患者さまが過去に服用した漢方薬のメーカーや、飲みやすさに関する希望を伺い、処方を検討しています。漢方薬の選び方についても、患者さまの体質や症状に合わせて詳しく説明する機会が多いです。
茯苓飲に関する患者さまからのご質問

茯苓飲を処方する際の当院の診療フロー
当院では、茯苓飲を処方するにあたり、患者さまの症状や体質を詳細に把握するための診療フローを設けています。適切な漢方薬を選択し、安全に治療を進めることが最優先です。
初診時の問診と診察
- 詳細な問診: 胃もたれ、吐き気、食欲不振などの消化器症状の具体的な内容、発症時期、悪化因子・改善因子を詳しく伺います。また、冷え、むくみ、便通、睡眠、ストレス状況など、全身の状態についても確認します。
- 漢方的な診察: 舌診(舌の色や形、苔の状態)、脈診(脈の強さや速さ)、腹診(お腹の張りや圧痛)などを行い、患者さまの「証」を判断します。胃腸虚弱の程度や水湿の有無などを評価し、茯苓飲が適しているかを見極めます。
- 西洋医学的評価: 必要に応じて、血液検査や画像検査などを行い、胃腸症状の原因が他の重篤な疾患によるものではないかを確認します。
実際の診察では、患者さまの「胃が冷える感じがする」「ストレスで胃がキリキリする」といった具体的な訴えを重視し、舌や脈の状態と合わせて総合的に判断します。皮膚科の観点からは、皮膚症状と胃腸症状の関連性も考慮し、全身的なアプローチを心がけています。
処方と説明
茯苓飲が適切と判断された場合、患者さまの年齢や体重、症状の程度に合わせて用法・用量を決定し処方します。その際、以下の点について丁寧に説明します。
- 服用方法: 食前または食間に水またはぬるま湯で服用すること、飲み忘れ時の対処法など。
- 期待される効果: 胃もたれや食欲不振の改善など、具体的にどのような効果が期待できるか。
- 副作用: 重大な副作用(偽アルドステロン症、ミオパチー)やその他の副作用について、症状と対処法を説明します。特に、むくみや脱力感などの初期症状には注意を促します。
- 生活習慣の改善: 漢方薬の効果を最大限に引き出すため、暴飲暴食を避ける、冷たい飲食物を控える、ストレスを軽減するなどの生活習慣のアドバイスも行います。
フォローアップ
処方後は、定期的な受診をお願いし、効果の評価と副作用の確認を行います。特に、長期間服用する場合は、定期的な血液検査(カリウム値など)や血圧測定を行い、安全性を確認します。患者さまから「胃の調子が良くなったので、皮膚の痒みも少し落ち着いた気がする」といった声を聞くこともあり、全身状態の改善が皮膚症状にも良い影響を与えることを実感しています。フォローアップでは、効果の実感、継続状況、新たな症状の有無などを確認し、必要に応じて処方内容の調整を行います。
まとめ
茯苓飲(ツムラ69)は、胃腸虚弱による心窩部のつかえ、吐き気、食欲不振などの症状に有効な漢方薬です。胃に停滞した水湿を取り除き、胃の働きを整えることで、消化器症状の改善が期待されます。用法・用量を守り、食前または食間に服用することが一般的です。重大な副作用として偽アルドステロン症やミオパチーが稀に報告されているため、むくみや脱力感などの症状に注意し、異変を感じたら速やかに医師に相談してください。ジェネリック医薬品も複数のメーカーから提供されており、医師と相談して選択が可能です。当院では、患者さま一人ひとりの体質や症状を丁寧に診察し、茯苓飲が適切であるかを判断した上で、服用方法や注意点を詳しく説明し、定期的なフォローアップを通じて安全かつ効果的な治療を目指しています。
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