芍薬甘草湯こむら返り効果|皮膚科医が解説
- ✓ 芍薬甘草湯は、急な筋肉のけいれんや痛みに速効性が期待できる漢方薬です。
- ✓ 主な副作用として、偽アルドステロン症やミオパチーなどがあり、特に高齢者や心臓・腎臓疾患のある方は注意が必要です。
- ✓ 頓服での使用が基本ですが、慢性的な症状には継続的な服用も検討されます。
芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)とは?

芍薬甘草湯(ツムラ68)は、急激に起こる筋肉のけいれんを伴う痛み、いわゆる「こむら返り」や腹痛、腰痛などに用いられる漢方薬です[5]。この薬は、芍薬と甘草という2種類の生薬から構成されており、特に筋肉の緊張を和らげ、痛みを鎮める作用を持つとされています。当院の皮膚科外来では、夜間のこむら返りに悩まされる患者さまから「急に足がつって目が覚める」「痛くて歩けない」といった相談を受けることが多く、頓服薬として芍薬甘草湯を処方する機会が頻繁にあります。
芍薬甘草湯の歴史と構成生薬
芍薬甘草湯は、中国の古典医学書『傷寒論』に記載されている方剤であり、古くから筋肉のけいれんや疼痛の緩和に用いられてきました。構成生薬は以下の2つです。
- 芍薬(シャクヤク): ボタン科のシャクヤクの根を乾燥させたもので、鎮痛、鎮痙、抗炎症作用があるとされています。
- 甘草(カンゾウ): マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させたもので、鎮痛、鎮痙、抗炎症、抗アレルギー作用のほか、胃腸の働きを整える作用も期待されます。
これら2つの生薬が組み合わさることで、相乗的に筋肉の緊張を緩和し、痛みを和らげる効果を発揮すると考えられています。
芍薬甘草湯の作用機序とは?
芍薬甘草湯の作用機序は完全に解明されているわけではありませんが、主に以下の点が指摘されています。
- 芍薬の作用
- 芍薬に含まれるペオニフロリンという成分が、アセチルコリンの遊離を抑制したり、カルシウムイオンの細胞内への流入を阻害したりすることで、過剰な筋肉の収縮を抑えると考えられています。
- 甘草の作用
- 甘草に含まれるグリチルリチン酸は、抗炎症作用や抗アレルギー作用を持つことが知られています。また、ミネラルコルチコイド様作用により、体内の水分や電解質のバランスに影響を与える可能性も指摘されています。
これらの成分が複合的に作用することで、筋肉の異常な興奮を鎮め、けいれんや痛みを緩和すると考えられています。
芍薬甘草湯はこむら返りに効果がある?
芍薬甘草湯は、こむら返りをはじめとする筋肉のけいれんに対して高い効果が期待される漢方薬です。特に急性の症状に対して、速やかに効果を発揮することが臨床的に確認されています。実際の診察では、患者さまから「飲んで数分で痛みが和らいだ」「夜中に足がつったときに飲むとすぐに楽になる」といった声を聞くことがよくあります。
こむら返りへの効果に関するエビデンス
芍薬甘草湯のこむら返りに対する有効性は、複数の臨床研究で報告されています。特に、透析患者に頻発するこむら返りに対する即効性が注目されています。
- ある研究では、血液透析中に発生する筋肉のけいれんに対して芍薬甘草湯を投与したところ、約90%の患者でけいれんが消失または軽減したと報告されています[4]。別の研究でも、透析患者のこむら返りに対して芍薬甘草湯が即効性を示すことが示されています[1]。
- 腰部脊柱管狭窄症の患者における疼痛性筋痙攣に対しても、芍薬甘草湯が有効である可能性が示唆されています[2]。
- 慢性維持透析患者を対象とした予備的研究では、芍薬甘草湯の経口投与が筋肉のけいれんに効果をもたらすことが示唆されています[3]。
これらの研究は、芍薬甘草湯が様々な状況で発生する筋肉のけいれんに対して有効であることを裏付けています。
どのような症状に処方される?
芍薬甘草湯は、添付文書上、以下の効能・効果が認められています[5]。
- 急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛
- 胃痛
- 腹痛
- こむら返り
- 腰痛
こむら返り以外にも、胃腸炎による腹痛や、生理痛、神経痛など、筋肉の緊張やけいれんが原因となる様々な痛みに応用されることがあります。当院では、皮膚疾患に伴う神経痛や、帯状疱疹後神経痛の補助的な治療として処方することもあります。皮膚科の日常診療では、患者さまの具体的な痛みの性質や、他の持病、服用中の薬などを総合的に考慮して処方の判断をしています。
芍薬甘草湯の用法・用量と服用時の注意点とは?

芍薬甘草湯は、症状に応じて頓服または継続的に服用されますが、特に頓服での使用が一般的です。適切な用法・用量を守り、注意点を理解して服用することが重要です。
標準的な用法・用量
添付文書に記載されている標準的な用法・用量は以下の通りです[5]。
- 成人: 通常、1日7.5gを2~3回に分割し、食前または食間に経口投与する。
- 頓服の場合: 症状が急激に起こった際に、1回量を服用する。
症状や年齢、体重によって適宜増減されます。当院では、こむら返りの患者さまには、まず頓服での服用を指導し、効果が不十分な場合や、慢性的に頻発する場合は、医師の判断で継続的な服用を検討します。継続的な服用の場合でも、副作用のリスクを考慮し、定期的な血液検査などで経過を観察することが重要です。
服用時の注意点
- 空腹時服用が基本: 漢方薬は一般的に、胃の中に食べ物がない食前(食事の30分~1時間前)または食間(食後2時間程度)に服用することで、生薬の成分が吸収されやすいとされています。
- お湯に溶かして服用: 顆粒やエキス剤の場合、少量のお湯に溶かして温かい状態で服用すると、生薬の香りや味が感じられ、より効果が高まると言われることがあります。
- 長期連用を避ける: 芍薬甘草湯は即効性が期待できる反面、甘草の成分による副作用(後述)のリスクがあるため、漫然とした長期連用は避けるべきです。特に、症状が改善した場合は服用を中止するか、医師に相談してください。
- 他の漢方薬との併用: 甘草を含む他の漢方薬と併用すると、甘草の過剰摂取となり、副作用のリスクが高まります。複数の漢方薬を服用している場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。
芍薬甘草湯は、その即効性から「漢方の頓服薬」として重宝されますが、甘草の過剰摂取による副作用のリスクがあるため、自己判断での安易な連用は避けるべきです。特に、市販薬として購入する場合も、必ず薬剤師に相談し、服用期間や量を守るようにしてください。
芍薬甘草湯に副作用はある?
芍薬甘草湯は漢方薬ですが、医薬品である以上、副作用のリスクは存在します。特に、甘草に含まれる成分が原因で起こる「偽アルドステロン症」や「ミオパチー」は、注意すべき重大な副作用です。当院では、処方する際にこれらの副作用について患者さまに詳しく説明し、むくみや脱力感などの症状がないか、定期的に確認しています。
重大な副作用
以下の副作用は、発生頻度は低いものの、重篤な状態に至る可能性があるため、注意が必要です[5]。
- 偽アルドステロン症: 症状として、手足の脱力感、しびれ、こわばりに加えて、むくみ、体重増加、血圧上昇などが現れることがあります。これは、甘草の成分が体内の電解質バランス(ナトリウムやカリウム)に影響を与えることで起こります。血圧が高い方や心臓・腎臓に持病がある方は特に注意が必要です。
- ミオパチー: 偽アルドステロン症の症状が進むと、筋肉の障害であるミオパチー(横紋筋融解症を含む)に移行することがあります。手足の脱力感や筋肉痛、筋力低下が顕著になります。重症化すると、尿の色が赤褐色になるなどの症状を伴うこともあります。
これらの症状に気づいた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。特に高齢者や、高血圧、心臓病、腎臓病のある患者さまは、偽アルドステロン症やミオパチーのリスクが高まるため、慎重な投与が必要です。当院では、これらのリスクを考慮し、患者さまの既往歴や併用薬を詳細に確認した上で処方しています。
その他の副作用
重大な副作用ほどではないものの、以下のような副作用が報告されています[5]。
- 発疹、蕁麻疹などの過敏症
- 胃部不快感、吐き気、下痢などの消化器症状
これらの症状が現れた場合も、医師や薬剤師に相談してください。皮膚科の臨床経験上、漢方薬によるアレルギー反応は比較的稀ですが、体質によっては発疹やかゆみが出ることがあります。もし皮膚症状が出た場合は、他の薬との鑑別も含めて診察を行います。
芍薬甘草湯に関する患者さまからのご質問

芍薬甘草湯と他の漢方薬との違いは?
芍薬甘草湯は、筋肉のけいれんや痛みに特化した漢方薬ですが、漢方薬には様々な種類があり、それぞれ異なる作用機序や適応を持っています。当院の皮膚科では、患者さまの体質や症状の根本原因に合わせて、複数の漢方薬を使い分けることがあります。
代表的な漢方薬との比較
芍薬甘草湯が「急性の筋肉のけいれん」に特化しているのに対し、他の漢方薬はより広範な症状や体質改善を目指すものが多いです。ここでは、いくつかの代表的な漢方薬との比較をまとめます。
| 漢方薬名 | 主な構成生薬 | 主な効能・効果 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 芍薬甘草湯 | 芍薬、甘草 | 急激な筋肉のけいれんを伴う疼痛、こむら返り、胃痛など | 即効性があり、頓服での使用が多い。甘草による副作用に注意。 |
| 葛根湯 | 葛根、麻黄、桂皮、芍薬、甘草、大棗、生姜 | 感冒の初期、頭痛、肩こり、筋肉痛など | 体を温め、発汗を促す。比較的体力のある人向け。 |
| 当帰芍薬散 | 当帰、芍薬、川芎、茯苓、沢瀉、白朮 | 冷え性、貧血、生理不順、むくみ、めまいなど | 女性特有の症状に用いられることが多い。血行改善、水分代謝調整。 |
| 八味地黄丸 | 地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子 | 頻尿、排尿困難、しびれ、腰痛、かすみ目など | 高齢者の排尿トラブルや下肢のしびれなどに用いられることが多い。 |
使い分けのポイント
漢方薬の処方においては、患者さまの「証(体質や病状)」を見極めることが非常に重要です。芍薬甘草湯は、急性の筋肉のけいれんという明確な症状に対して用いられることが多いですが、慢性的な症状や全身的な不調が背景にある場合は、他の漢方薬や西洋薬との併用、あるいは他の漢方薬への切り替えを検討します。例えば、冷え性や貧血が原因でこむら返りが起こりやすい患者さまには、当帰芍薬散のような血行改善作用のある漢方薬が適している場合もあります。
当院では、問診で患者さまの生活習慣、既往歴、体質などを詳細に確認し、最適な漢方薬を選択するようにしています。漢方薬は西洋薬とは異なるアプローチで症状を改善するため、患者さま一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療が求められます。
まとめ
芍薬甘草湯は、急激な筋肉のけいれんを伴う痛み、特に「こむら返り」に対して速効性が期待できる漢方薬です。芍薬と甘草の2つの生薬が、筋肉の緊張を緩和し、痛みを鎮める作用を発揮します。多くの臨床研究でその有効性が示されており、透析患者のこむら返りにも効果が報告されています。
服用にあたっては、添付文書に準じた用法・用量を守り、特に甘草による偽アルドステロン症やミオパチーといった重大な副作用に注意が必要です。長期連用は避け、他の漢方薬との併用にも注意が必要です。当院では、患者さまの症状や体質、既往歴を詳しく確認し、副作用のリスクを考慮した上で、適切な処方を行っています。もし、服用中に異常を感じた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談してください。
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よくある質問(FAQ)
- Toru Hyodo, Takayasu Taira, Toru Takemura et al.. Immediate effect of Shakuyaku-kanzo-to on muscle cramp in hemodialysis patients.. Nephron. Clinical practice. 2006. PMID: 16685141. DOI: 10.1159/000093256
- Yumiko Takao, Yutaka Takaoka, Aki Sugano et al.. Shakuyaku-kanzo-to (Shao-Yao-Gan-Cao-Tang) as Treatment of Painful Muscle Cramps in Patients with Lumbar Spinal Stenosis and Its Minimum Effective Dose.. The Kobe journal of medical sciences. 2017. PMID: 27363396
- Fumihiko Hinoshita, Yosuke Ogura, Yoshio Suzuki et al.. Effect of orally administered shao-yao-gan-cao-tang (Shakuyaku-kanzo-to) on muscle cramps in maintenance hemodialysis patients: a preliminary study.. The American journal of Chinese medicine. 2004. PMID: 12943175. DOI: 10.1142/S0192415X03001144
- Toro Hyodo, Takayasu Taira, Miyuki Kumakura et al.. The immediate effect of Shakuyaku-kanzo-to, traditional Japanese herbal medicine, for muscular cramps during maintenance hemodialysis.. Nephron. 2002. PMID: 11818719. DOI: 10.1159/000049057
- 芍薬甘草湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
