帰脾湯(キヒトウ)の効果と副作用|皮膚科医が解説
- ✓ 帰脾湯は心身の不調を改善する漢方薬で、貧血や不眠、精神不安などに用いられます。
- ✓ 比較的安全な漢方薬ですが、胃部不快感や食欲不振、発疹などの副作用に注意が必要です。
- ✓ 効果を実感するまでには数週間から数ヶ月かかることが多く、継続的な服用が重要です。
帰脾湯(キヒトウ)とは?その定義とメカニズム

帰脾湯(きひとう)は、漢方医学において「気」と「血」の不足、特に「心脾両虚(しんぴりょうきょ)」と呼ばれる状態を改善するために用いられる漢方薬です。心脾両虚とは、精神活動を司る「心」と消化吸収を司る「脾」の機能が低下し、気力や体力、精神的な安定が損なわれた状態を指します。この状態では、貧血傾向、不眠、不安、動悸、食欲不振などの症状が現れやすくなります。帰脾湯は、これらの症状を和らげ、心身のバランスを取り戻すことを目的として処方されます。
- 心脾両虚(しんぴりょうきょ)
- 漢方医学における病態の一つで、精神活動を司る「心」と消化吸収を司る「脾」の機能が同時に低下した状態を指します。主な症状として、不眠、精神不安、動悸、食欲不振、貧血傾向などが挙げられます。
帰脾湯の構成生薬と薬理作用
帰脾湯は、以下の12種類の生薬から構成されています[2]。
- 人参(にんじん):気を補い、疲労回復を促します。
- 白朮(びゃくじゅつ):脾の働きを助け、消化吸収を改善し、水分代謝を整えます。
- 茯苓(ぶくりょう):利水作用があり、精神安定にも寄与します。
- 黄耆(おうぎ):気を補い、免疫力を高める作用があります。
- 当帰(とうき):血を補い、血行を促進します。
- 竜眼肉(りゅうがんにく):血を補い、精神を安定させる作用があります。
- 酸棗仁(さんそうにん):精神安定、不眠改善に用いられます。
- 遠志(おんじ):精神安定、記憶力向上に寄与するとされます。
- 木香(もっこう):気の巡りを良くし、消化器症状を改善します。
- 甘草(かんぞう):他の生薬の調和をとり、胃腸を保護します。
- 生姜(しょうきょう):体を温め、消化を助けます。
- 大棗(たいそう):気を補い、精神安定に寄与します。
これらの生薬が複合的に作用することで、消化吸収を助けて「気」と「血」を生成し、精神的な安定をもたらすと考えられています。特に、竜眼肉や酸棗仁、遠志は精神神経症状の改善に重要な役割を果たすとされています。
帰脾湯はどのような症状に効果がある?
帰脾湯は、心身の疲労や精神的な不調が原因で生じる様々な症状に適用されます。添付文書には「虚弱体質で血色の悪い人の貧血、不眠症、精神不安、神経症」と記載されています[2]。当院の皮膚科外来では、皮膚症状だけでなく、ストレスや不眠が背景にある患者さまに、補助的な治療として帰脾湯を処方する機会があります。例えば、アトピー性皮膚炎の悪化要因として不眠や精神的ストレスが挙げられる場合、その改善を目指して処方を検討することがあります。
具体的な適応症状
- 貧血傾向:顔色が悪い、めまい、立ちくらみなどの症状を持つ方。
- 不眠症:寝つきが悪い、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚めるなどの睡眠障害。
- 精神不安・神経症:漠然とした不安感、イライラ、動悸、集中力低下など。
- 疲労倦怠感:慢性的なだるさ、気力の低下。
- 食欲不振・消化不良:胃腸の機能低下による食欲のなさや消化不良。
- 物忘れ・認知機能の低下:近年では、認知機能への影響も研究されています[1]。
特に、不眠や精神不安の症状は、現代社会において多くの患者さまが抱える問題です。当院では帰脾湯を処方した患者さまから、「夜中に目が覚める回数が減った」「以前より落ち着いて過ごせるようになった」というフィードバックをいただくことが多いです。ただし、効果の発現には個人差があり、数週間から数ヶ月の服用が必要となることもあります。
認知機能への可能性
近年では、帰脾湯が認知機能に与える影響についても研究が進められています。例えば、アルツハイマー病患者において認知機能の改善を示唆する研究報告もあります[1]。これは、帰脾湯が脳の血流改善や神経保護作用を持つ可能性を示唆しており、今後のさらなる研究が期待される分野です。ただし、現時点では認知症の治療薬として広く推奨されているわけではなく、あくまで補助的な治療としての可能性が議論されています。
帰脾湯の正しい用法・用量と服用上の注意点

帰脾湯は、添付文書に記載された用法・用量を守って服用することが重要です。一般的に、成人には1日7.5g(医療用エキス顆粒の場合)を2〜3回に分けて、食前または食間に水またはぬるま湯で服用します[2]。症状や体質によって用量が調整されることもありますので、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
服用方法のポイント
- 食前・食間服用:漢方薬は一般的に、胃の中に食べ物がない状態で服用することで、生薬の成分が吸収されやすくなると言われています。食前(食事の約30分前)または食間(食後2時間くらい)に服用するのが一般的です。
- お湯に溶かす:顆粒タイプの漢方薬は、少量のお湯に溶かして温かい状態で服用すると、生薬の香りが広がり、吸収も良くなると言われています。
- 継続的な服用:漢方薬は即効性よりも体質改善を目的とするため、効果を実感するまでに時間がかかることがあります。自己判断で服用を中止せず、医師の指示に従って継続することが大切です。
実際の診察では、患者さまから「漢方薬は苦くて飲みにくい」と質問されることがよくあります。その際は、少量の水で練って団子状にしてから飲み込んだり、オブラートに包んで服用したりする方法をお伝えしています。また、服用を忘れてしまう方には、食卓の目につく場所に置くなど、生活習慣に組み込む工夫をアドバイスすることもあります。
自己判断で服用量を変えたり、服用を中止したりすることは避けてください。他の薬との併用や、持病がある場合は、必ず事前に医師や薬剤師に相談しましょう。
服用期間と効果の発現
漢方薬の効果は個人差が大きく、症状の程度や体質によって異なります。一般的に、効果を実感するまでには数週間から数ヶ月かかることが多いです。当院では、帰脾湯を処方した患者さまに対し、まずは1ヶ月程度の服用を継続していただき、その後の診察で効果や副作用の有無を確認しています。特に不眠や精神不安の改善は、徐々に現れることが多いため、焦らず治療を続けることが重要です。
帰脾湯の副作用と注意すべき点
帰脾湯は比較的安全性の高い漢方薬ですが、全く副作用がないわけではありません。体質や体調によっては、いくつかの副作用が現れる可能性があります。また、特定の疾患を持つ方や、他の薬剤を服用している方は注意が必要です。
重大な副作用
添付文書に記載されている重大な副作用は以下の通りです[2]。
- 偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。これは甘草の大量摂取により起こる可能性があり、血圧上昇やむくみを伴うことがあります。
- ミオパチー:偽アルドステロン症の進行により、筋肉の障害が起こることがあります。
これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医師の診察を受けてください。特に、甘草を含む他の漢方薬や薬剤との併用には注意が必要です。当院では、患者さまの既往歴や併用薬を詳細に確認し、偽アルドステロン症のリスクを評価した上で処方を検討しています。
その他の副作用
比較的頻度は低いものの、以下のような副作用が報告されています[2]。
- 消化器症状:食欲不振、胃部不快感、吐き気、下痢など。
- 過敏症:発疹、かゆみなど。
これらの症状が現れた場合も、服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。皮膚科の臨床経験上、漢方薬による発疹は比較的稀ですが、体質によっては生じることがあります。特にアレルギー体質の方には、慎重に処方を検討し、服用開始後の経過観察を重視しています。
服用に注意が必要な方
- 高齢者:生理機能が低下しているため、減量するなど注意が必要です。
- 妊婦・授乳婦:治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ服用を検討します。必ず医師に相談してください。
- 高血圧、心臓病、腎臓病のある方:偽アルドステロン症のリスクがあるため、慎重な服用が必要です。
帰脾湯に関する患者さまからのご質問

ジェネリック医薬品と保険適用について
帰脾湯は、医療用漢方製剤として複数のメーカーから製造販売されています。これらは一般的に「ツムラ帰脾湯エキス顆粒(医療用)」や「コタロー帰脾湯エキス顆粒」など、メーカー名が冠された形で流通しています。漢方薬の場合、西洋薬のような厳密な意味でのジェネリック医薬品という概念は当てはまりにくいですが、同じ処方内容であれば同等とみなされます。
医療用漢方製剤の種類
医療用漢方製剤は、厚生労働省が定める「一般用漢方製剤承認基準」に基づいて製造されており、品質や有効性、安全性に関する一定の基準を満たしています。複数のメーカーから同じ処方内容の漢方薬が販売されていますが、これらは基本的に同じ効果が期待できます。ただし、賦形剤(添加物)の種類や味、溶けやすさなどが異なる場合があるため、特定のメーカーのものが合わないと感じる場合は、医師や薬剤師に相談して変更することも可能です。
| 項目 | 西洋薬のジェネリック | 漢方薬(同処方) |
|---|---|---|
| 開発経緯 | 先発薬の特許切れ後に製造 | 伝統的な処方に基づき各社が製造 |
| 有効成分 | 単一または少数の化学合成品 | 複数の天然生薬の組み合わせ |
| 同等性の概念 | 生物学的同等性試験で確認 | 処方内容が同じであれば同等とみなされる |
| 価格 | 先発薬より安価 | メーカー間で大きな価格差はない |
保険適用について
医療機関で医師の診察を受け、病名がつき、帰脾湯が処方された場合、保険診療の対象となります。これにより、患者さまは医療費の自己負担割合に応じて薬剤費を支払うことになります。当院では、患者さまの症状や体質を総合的に判断し、保険診療の範囲内で適切な漢方薬の処方を行っています。保険適用外の漢方薬やサプリメントを検討されている場合は、必ず医師に相談し、その必要性や安全性について確認することが重要です。
まとめ
帰脾湯は、心身の疲労や精神的な不調、特に「心脾両虚」の病態に効果を発揮する漢方薬です。貧血傾向、不眠症、精神不安、神経症などの症状に対して用いられ、近年では認知機能への影響も注目されています。正しい用法・用量を守り、継続的に服用することで、体質改善や症状の緩和が期待できます。
比較的安全性の高い薬剤ですが、偽アルドステロン症などの重大な副作用や、胃部不快感、発疹などの一般的な副作用も報告されています。服用中に気になる症状が現れた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談してください。妊娠中や授乳中の方、特定の持病をお持ちの方は、必ず事前に医師に相談し、慎重に服用を検討することが重要です。
医療用漢方製剤として保険適用されており、複数のメーカーから同等の処方内容で提供されています。ご自身の体質や症状に合った漢方薬を選択するためにも、専門医の診察を受け、適切なアドバイスを得ることが大切です。
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よくある質問(FAQ)
- Hidetoshi Watari, Yutaka Shimada, Mie Matsui et al.. Kihito, a Traditional Japanese Kampo Medicine, Improves Cognitive Function in Alzheimer’s Disease Patients.. Evidence-based complementary and alternative medicine : eCAM. 2024. PMID: 31217803. DOI: 10.1155/2019/4086749
- 帰脾湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
