加味帰脾湯の効果と副作用|皮膚科医が解説
- ✓ 加味帰脾湯は心身の疲労による不眠、不安、貧血などに用いられる漢方薬です。
- ✓ 比較的副作用が少ないとされますが、消化器症状や肝機能障害などに注意が必要です。
- ✓ 効果を実感するまでには時間がかかることが多く、継続的な服用が重要です。
加味帰脾湯とは?その基本情報とメカニズム

加味帰脾湯(カミキヒトウ)は、心身の疲労やストレスが原因で生じる様々な症状に用いられる漢方薬です。特に、不眠症、神経症、貧血、胃腸虚弱などの症状を改善する目的で処方されます。この漢方薬は、気(生命エネルギー)と血(栄養物質)の不足を補い、心の機能を安定させることで、全身のバランスを整えると考えられています。
加味帰脾湯は、以下の14種類の生薬から構成されています[5]。
- 人参(ニンジン)
- 白朮(ビャクジュツ)または蒼朮(ソウジュツ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 酸棗仁(サンソウニン)
- 竜眼肉(リュウガンニク)
- 遠志(オンジ)
- 当帰(トウキ)
- 黄耆(オウギ)
- 柴胡(サイコ)
- 山梔子(サンシシ)
- 木香(モッコウ)
- 甘草(カンゾウ)
- 生姜(ショウキョウ)
- 大棗(タイソウ)
これらの生薬が複合的に作用することで、以下のような薬理作用が報告されています。
神経系への作用
加味帰脾湯は、ストレス反応の緩和に寄与することが示唆されています。急性ストレスを受けたラットにおいて、オキシトシンの分泌を増加させることが報告されており、これはストレス軽減効果の一因と考えられます[2]。また、脳虚血や低酸素状態に対する保護作用も動物実験で確認されています[3]。さらに、リポ多糖誘発性の病態行動(sickness behavior)を改善する効果も報告されており、これは視床下部室傍核や扁桃体中心核の神経活動を抑制することによるものと推測されています[4]。
内分泌系・代謝系への作用
高脂肪食誘発性の肥満や慢性炎症、糖嗜好性(sucrose preference)の改善に寄与する可能性も示されています。これは、特に中高年のマウスにおいて、ホルモンバランスや代謝機能の調整を通じて、全身状態の改善に繋がることを示唆しています[1]。
- 気虚(ききょ)
- 漢方医学における概念で、生命活動のエネルギーである「気」が不足している状態を指します。疲労感、倦怠感、食欲不振、息切れなどの症状が現れやすいです。
- 血虚(けっきょ)
- 漢方医学における概念で、全身に栄養を運ぶ「血」が不足している状態を指します。貧血、めまい、動悸、不眠、皮膚や髪の乾燥などの症状が現れやすいです。
当院の皮膚科外来では、アトピー性皮膚炎や慢性湿疹などで心身のストレスが症状を悪化させている患者さまに、補助的に加味帰脾湯を処方することがあります。特に、夜間の掻痒感による不眠や、精神的な不安定さが顕著な場合に、全身状態の改善を目指して用いることが多いです。患者さまからは「夜よく眠れるようになった」「イライラが減った」といったフィードバックをいただくこともあります。
加味帰脾湯の効能・効果と対象となる症状
加味帰脾湯は、心身の疲労やストレスが原因で生じる多岐にわたる症状に対して効果を発揮します。その主な効能・効果は、虚弱体質で血色の悪い人の貧血、不眠症、精神不安、そして神経症です[5]。これらの症状は、現代社会において多くの人が抱える問題であり、加味帰脾湯はその根本的な改善を目指します。
不眠症と精神不安
不眠症は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒など、様々な形で現れます。加味帰脾湯は、心身の過緊張を和らげ、精神的な安定をもたらすことで、質の良い睡眠をサポートします。特に、考えすぎたり、心配事が多かったりして眠れないといったタイプの不眠に有効とされます。精神不安に対しても、心を落ち着かせ、イライラや動悸といった症状の軽減に寄与します。
貧血と全身倦怠感
血虚の状態は、貧血や全身倦怠感、めまい、立ちくらみといった症状を引き起こします。加味帰脾湯に含まれる生薬は、血を補い、全身の栄養状態を改善することで、これらの症状の緩和に役立ちます。特に、顔色が悪く、疲れやすいといった虚弱体質の患者さまに適しています。
神経症と自律神経の乱れ
神経症は、自律神経の乱れからくる多種多様な身体症状や精神症状を指します。例えば、動悸、息切れ、頭重感、めまい、消化器症状などが挙げられます。加味帰脾湯は、自律神経のバランスを整える作用も期待されており、これらの神経症に伴う症状の改善に貢献します。当院では、皮膚症状の悪化に加えて、このような精神的な不調を訴える患者さまに、加味帰脾湯を検討することがあります。特に、季節の変わり目やストレスが多い時期に「何となく体調が悪い」「気分が落ち込みやすい」といった相談を受けることが多いです。
その他の適用
添付文書には記載されていませんが、臨床的には以下のような症状にも応用されることがあります。
- 月経不順や更年期障害に伴う精神症状
- 試験や発表前の緊張による胃腸症状
- 慢性的な疲労感
実際の診察では、患者さまから「寝つきが悪くて、朝起きても体がだるい」「些細なことでイライラしてしまう」と質問されることがよくあります。このような場合、問診で生活習慣やストレス状況を詳しく伺い、加味帰脾湯が適応となるかどうかを判断します。特に、顔色や舌の状態、脈なども漢方医学的な視点から確認し、患者さまの体質に合った処方を行います。
加味帰脾湯の正しい使い方と服用方法

加味帰脾湯は、その効果を最大限に引き出すために、正しい用法・用量で服用することが重要です。一般的に、漢方薬は空腹時に服用することが推奨されていますが、個々の体質や症状、他の薬との兼ね合いによって調整されることがあります。
用法・用量
ツムラ加味帰脾湯エキス顆粒(医療用)の場合、通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割して、食前または食間に経口投与します。年齢、体重、症状により適宜増減されます[5]。
- 食前:食事の30分~1時間前
- 食間:食事と食事の間(食後2時間程度)
顆粒は水またはぬるま湯で服用しますが、お湯に溶かして温かい状態で飲むと、生薬の成分が吸収されやすくなるとも言われています。ただし、熱すぎると飲みにくい場合もあるため、ご自身の飲みやすい温度で構いません。
服用期間と効果の発現
漢方薬は、西洋薬のように即効性があるわけではなく、体質を改善しながらゆっくりと効果を発揮することが多いです。加味帰脾湯も例外ではなく、効果を実感するまでには数週間から数ヶ月かかることがあります。当院では、患者さまに「すぐに効果が出なくても、まずは1ヶ月程度は継続して様子を見ましょう」とお伝えすることが多いです。特に、不眠や精神不安といった症状は、日々の生活習慣やストレス要因も大きく影響するため、薬だけでなく生活習慣の見直しも合わせてアドバイスしています。
自己判断で服用を中止したり、用量を変更したりすることは避けてください。症状が改善しない場合や、体調に異変を感じた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談してください。
皮膚科の日常診療では、加味帰脾湯を処方する際に、患者さまが他の漢方薬や西洋薬を服用していないか、アレルギー歴がないかなどを詳細に確認します。特に、胃腸が弱い方や冷えやすい方など、体質によっては生薬の配合を調整する必要がある場合もあります。処方する際は、患者さまの現在の症状だけでなく、体質や生活背景を総合的に考慮して、最適な用法を選択しています。
加味帰脾湯の副作用と注意すべき点
加味帰脾湯は比較的安全性の高い漢方薬とされていますが、全く副作用がないわけではありません。体質や既往歴によっては、特定の副作用が現れる可能性があります。服用中に体調の変化を感じた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談することが重要です。
重大な副作用
頻度は不明ですが、以下の重大な副作用が報告されています[5]。
- 偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛が現れ、徐々に強くなる。これは、甘草の大量摂取による電解質異常が原因となることがあります。
- ミオパチー:偽アルドステロン症の症状に加えて、横紋筋融解症(筋肉の破壊)が進行し、重篤な腎機能障害に至る可能性があります。
- 肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害や黄疸が現れることがあります。
その他の副作用
頻度は不明ですが、以下のような副作用が報告されています[5]。
- 消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢
- 皮膚:発疹、じんましん
服用上の注意点
- 高齢者:一般に生理機能が低下しているため、減量するなど注意が必要です。
- 妊婦・授乳婦:妊娠中の安全性は確立されていません。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。授乳婦への投与も慎重に行う必要があります。
- 小児:小児への投与経験が少ないため、慎重に投与する必要があります。
- 他の薬剤との併用:特に甘草を含む他の漢方薬やグリチルリチン酸製剤との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
当院では、加味帰脾湯を処方した患者さまから、ごく稀に「胃の調子が悪い」「少し便が緩くなった」というフィードバックをいただくことがあります。このような場合、服用量を調整したり、食後に変更したりすることで症状が改善することが多いです。また、定期的な診察で、手足のしびれやむくみがないか、肝機能の採血データに異常がないかなどを確認し、安全に服用を継続できるようフォローアップを行っています。
加味帰脾湯に関する患者さまからのご質問

ジェネリック医薬品と保険適用について
加味帰脾湯は、医療用漢方製剤として広く用いられており、保険適用が可能です。ジェネリック医薬品についても、いくつかのメーカーから製造販売されています。
ジェネリック医薬品の選択
漢方薬のジェネリック医薬品は、一般的に「後発医薬品」と呼ばれます。ツムラ社以外のメーカーからも、同様の生薬構成で製造された加味帰脾湯エキス顆粒が販売されています。これらは、有効成分や効能・効果、安全性において先発品と同等であると国から認められています。ジェネリック医薬品を選択することで、薬代を抑えることができるため、経済的な負担を軽減したい方には良い選択肢となります。
| 項目 | 先発医薬品(ツムラ加味帰脾湯) | ジェネリック医薬品(他社製加味帰脾湯) |
|---|---|---|
| 有効成分 | 加味帰脾湯エキス | 加味帰脾湯エキス |
| 効能・効果 | 貧血、不眠症、精神不安、神経症 | 貧血、不眠症、精神不安、神経症 |
| 安全性 | 国が承認 | 国が承認(先発品と同等) |
| 薬価 | 比較的高価 | 比較的安価 |
当院では、患者さまのご希望に応じてジェネリック医薬品の選択肢も提示しています。特に長期にわたる服用が予想される場合、ジェネリック医薬品に切り替えることで、患者さまの経済的負担が軽減され、治療継続に繋がりやすいというメリットがあります。ただし、メーカーによって賦形剤などが異なる場合があるため、味や溶けやすさに違いを感じる方もいらっしゃいます。もし服用中に違和感があれば、遠慮なくご相談ください。
保険適用について
加味帰脾湯は、医師の診察に基づいて処方された場合、公的医療保険が適用されます。これにより、患者さまは医療費の一部を自己負担するだけで薬を受け取ることができます。保険適用外の自由診療で漢方薬を処方している医療機関もありますが、当院では保険診療を基本としています。保険診療と自由診療
まとめ
加味帰脾湯は、心身の疲労やストレスが原因で生じる不眠症、精神不安、貧血、神経症などに有効な漢方薬です。気と血の不足を補い、心の機能を安定させることで、全身のバランスを整える作用が期待されます。効果を実感するまでには時間がかかることが多いため、医師の指示に従い、継続して服用することが重要です。比較的副作用は少ないとされていますが、消化器症状や重大な副作用の可能性もゼロではありません。服用中に体調の変化を感じた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談してください。ジェネリック医薬品も存在し、保険適用で処方されるため、費用負担を抑えながら治療を継続することが可能です。当院では、患者さま一人ひとりの体質や症状、生活背景を総合的に判断し、最適な治療法を提案しています。
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よくある質問(FAQ)
- Yuko Maejima, Shoko Yokota, Megumi Yamachi et al.. Traditional Japanese medicine Kamikihito ameliorates sucrose preference, chronic inflammation and obesity induced by a high fat diet in middle-aged mice.. Frontiers in endocrinology. 2024. PMID: 38742193. DOI: 10.3389/fendo.2024.1387964
- Mana Tsukada, Hideshi Ikemoto, Xiao-Pen Lee et al.. Kamikihito, a traditional Japanese Kampo medicine, increases the secretion of oxytocin in rats with acute stress.. Journal of ethnopharmacology. 2021. PMID: 34029638. DOI: 10.1016/j.jep.2021.114218
- K Nishizawa, O Inoue, Y Saito et al.. Protective effects of kamikihi-to, a traditional Chinese medicine, against cerebral ischemia, hypoxia and anoxia in mice and gerbils.. Japanese journal of pharmacology. 1994. PMID: 8022119. DOI: 10.1254/jjp.64.171
- Ryota Araki, Shoji Nishida, Yosuke Hiraki et al.. Kamikihito Ameliorates Lipopolysaccharide-Induced Sickness Behavior via Attenuating Neural Activation, but Not Inflammation, in the Hypothalamic Paraventricular Nucleus and Central Nucleus of the Amygdala in Mice.. Biological & pharmaceutical bulletin. 2016. PMID: 26830488. DOI: 10.1248/bpb.b15-00707
- 加味帰脾湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
