- ✓ 床ずれ(褥瘡)は、適切な在宅ケアと早期の皮膚科受診が進行を防ぐ鍵です。
- ✓ 体位変換、皮膚の清潔保持、栄養管理、適切な寝具の使用が在宅ケアの基本となります。
- ✓ 発赤が消えない、水疱、皮膚の損傷、悪臭、発熱などの症状が見られたら速やかに皮膚科を受診しましょう。
在宅で療養されている方にとって、床ずれ(褥瘡)は生活の質を著しく低下させる深刻な問題です。適切な知識とケアがあれば、その発生を予防し、悪化を防ぐことができます。この記事では、在宅での床ずれケアの具体的な方法と、皮膚科を受診すべきタイミングについて、専門的な視点から詳しく解説します。
床ずれ(褥瘡)とは?そのメカニズムとリスク要因

床ずれ(褥瘡)は、体の同じ部位に長時間圧力がかかることで血流が滞り、皮膚や皮下組織が損傷を受ける状態を指します。そのメカニズムとリスク要因を理解することは、予防と早期発見に不可欠です。
床ずれは、骨が突出している部分(仙骨部、かかと、肘、後頭部など)に体重がかかり続けることで発生しやすいとされています[1]。圧力によって毛細血管が圧迫され、組織への酸素や栄養の供給が不足し、細胞が壊死することで皮膚に潰瘍が形成されます。この圧力の他にも、摩擦やずれ力(体位変換時に皮膚が引っ張られる力)も床ずれ発生の重要な要因です[2]。
- 褥瘡(じょくそう)
- 体の一部が長時間圧迫されることで血流が滞り、皮膚や皮下組織が損傷を受けてできる潰瘍のこと。一般的に「床ずれ」と呼ばれます。
床ずれのリスク要因にはどのようなものがありますか?
床ずれのリスク要因は多岐にわたります。主なものとして、以下の点が挙げられます[3]。
- 不動状態: 寝たきりや車椅子での生活が長く、自分で体位を変えられない方。
- 栄養状態の悪化: 低栄養や脱水は皮膚の脆弱性を高め、治癒を遅らせます。
- 皮膚の湿潤: 失禁や発汗などによる皮膚の湿潤は、皮膚のバリア機能を低下させ、損傷しやすくします。
- 感覚障害: 痛みを感じにくいため、圧迫による不快感を訴えられず、体位変換が遅れることがあります。
- 基礎疾患: 糖尿病、循環器疾患、神経疾患などは血流障害や治癒能力の低下を招き、リスクを高めます。
当院では、初診時に「最近、お尻のあたりが赤くなっている気がする」「かかとが黒ずんできた」と相談される患者さまも少なくありません。問診の際に患者さまの生活状況や基礎疾患、栄養状態を詳しく伺うようにしており、これらのリスク要因を早期に把握することが予防と治療の第一歩であると実感しています。
在宅での床ずれケアの基本とは?
在宅での床ずれケアは、予防と早期発見、そして適切な処置が重要です。ご家族や介護者が中心となって行うケアの基本を解説します。
1. 定期的な体位変換
体位変換は、床ずれ予防の最も基本的なケアです。同じ部位に圧力がかかり続けることを防ぐために、2〜3時間ごとに体位を変えることが推奨されています[4]。車椅子に座っている場合は、15分〜1時間ごとに座り直しや体重移動を促しましょう。
- 体位変換のポイント:
- 体を持ち上げるようにして移動させ、摩擦やずれ力を避ける。
- クッションや枕を活用し、骨の突出部が直接床やベッドに触れないようにする。
- 膝と膝、くるぶしとくるぶしが直接触れないように間にクッションを挟む。
当院では、体位変換の指導を行う際に、ご家族の方に実際に人形を使って練習していただくこともあります。正しい方法で体位変換を行うことで、患者さまの負担を減らし、床ずれ発生のリスクを大幅に下げることができます。
2. 皮膚の清潔保持とスキンケア
皮膚を清潔に保ち、適切な保湿を行うことは、皮膚のバリア機能を維持し、床ずれ予防に役立ちます。
- 洗浄: 毎日、刺激の少ない石鹸とぬるま湯で優しく洗い、清潔なタオルで水分を丁寧に拭き取ります。特に失禁があった場合は、速やかに洗浄し乾燥させることが重要です。
- 保湿: 洗浄後は、保湿剤を塗布して皮膚の乾燥を防ぎます。特に乾燥しやすい部位には念入りに塗布しましょう。
- 皮膚の観察: 毎日、全身の皮膚を観察し、発赤や水疱、皮膚のただれがないか確認します。特に骨の突出部や、おむつが当たる部位は注意深く観察しましょう。
診察の中で、皮膚の湿潤が原因で床ずれが悪化しているケースをよく経験します。特に、おむつを使用している患者さまの場合、排泄物による皮膚炎から床ずれに移行することが多いため、こまめなおむつ交換と適切な洗浄・保護が非常に重要であると指導しています。
3. 栄養管理と水分補給
十分な栄養と水分は、健康な皮膚を保ち、損傷した皮膚の修復を促進するために不可欠です。
- タンパク質: 皮膚や筋肉の構成成分であり、傷の治癒に不可欠です。肉、魚、卵、大豆製品などを積極的に摂取しましょう。
- ビタミン・ミネラル: 特にビタミンCや亜鉛は、コラーゲンの生成や免疫機能に関与し、治癒を助けます。
- 水分: 脱水は皮膚の乾燥を招き、脆弱性を高めます。十分な水分補給を心がけましょう。
当院では、床ずれの治療効果を高めるために、栄養士と連携して食事内容の見直しを提案することもあります。特に高齢の患者さまでは食欲不振や嚥下困難を伴うことが多く、「なかなか食事が摂れない」とおっしゃる方が多いため、高カロリー・高タンパク質の栄養補助食品の活用も検討します。
4. 適切な寝具・用具の活用
床ずれ予防には、体圧分散効果のある寝具や用具の活用が非常に有効です。
- 体圧分散マットレス: エアーマットレスやウレタンマットレスなど、体圧を均等に分散させる効果のあるマットレスを使用します。
- クッション: 車椅子や椅子に座る際には、仙骨部や坐骨部への圧力を軽減するクッションを使用します。ドーナツ型のクッションは、かえって圧力が集中する可能性があるため、使用には注意が必要です。
- ポジショニングピロー: 体位変換時に、骨の突出部を保護したり、姿勢を安定させたりするために使用します。
実際の診療では、患者さまの体の状態や生活環境に合わせて、最適な寝具や用具を選定することが重要なポイントになります。ケアマネージャーや福祉用具専門相談員と連携し、患者さまに合ったものを提案するようにしています。
体圧分散マットレスやクッションを使用している場合でも、定期的な体位変換は引き続き必要です。用具だけに頼らず、複合的なケアを継続することが重要です。
床ずれの進行度と症状の目安

床ずれは、その進行度合いによって症状が異なります。早期発見のためには、これらの段階を知っておくことが重要です。
床ずれの分類は、国際的な基準であるNPUAP(National Pressure Ulcer Advisory Panel)の分類が広く用いられています[5]。
| ステージ | 症状の目安 | 初期対応 |
|---|---|---|
| ステージ1 | 皮膚が赤くなり、指で押しても白くならない(消退しない発赤)。皮膚は損傷していない。 | 圧迫の除去、体位変換の徹底、スキンケア、皮膚の観察強化。 |
| ステージ2 | 表皮や真皮の一部が失われ、浅い潰瘍や水疱が形成される。 | 圧迫の除去、専門的なドレッシング材による保護、皮膚科受診を検討。 |
| ステージ3 | 皮膚の全層が失われ、皮下脂肪組織まで損傷が及ぶ。骨や腱は見えない。 | 速やかな皮膚科受診、専門的な創傷管理。 |
| ステージ4 | 皮膚の全層が失われ、筋肉、骨、腱、関節包などが露出する。 | 緊急性の高い皮膚科受診、場合によっては外科的処置が必要。 |
| 深部組織損傷疑い(DTI) | 皮膚は損傷していないが、深部に血豆のような紫色の変色や硬結が見られる。 | 速やかな皮膚科受診、進行する可能性が高い。 |
| 判定不能 | 壊死組織(黒色や黄色の痂皮)で創底が覆われ、深部組織の損傷範囲が不明。 | 速やかな皮膚科受診、壊死組織の除去が必要。 |
当院では、ステージ1の段階で受診される患者さまもいらっしゃいますが、多くはステージ2以降に「傷ができてしまった」と来院されます。しかし、ステージ1の段階で適切なケアを開始できれば、進行を食い止められる可能性が高まります。皮膚のわずかな変化も見逃さないよう、日々の観察が非常に大切です。
皮膚科を受診すべきタイミングはいつですか?
在宅でのケアを継続しつつも、皮膚科専門医の診察が必要となるタイミングがあります。以下の症状が見られた場合は、速やかに受診を検討しましょう。
1. 発赤が消えない場合
体位変換や圧迫の除去を行っても、皮膚の赤みが30分以上経っても消えない場合(ステージ1のサイン)は、皮膚組織に損傷が始まっている可能性があります。この段階で専門医に相談することで、悪化を防ぐことができます。
2. 水疱や皮膚の損傷が見られる場合
皮膚に水ぶくれ(水疱)ができたり、皮膚が剥がれてただれや潰瘍(ステージ2以降)が見られたりする場合は、自己判断での処置は避け、速やかに皮膚科を受診してください。適切な創傷処置やドレッシング材の選択が必要です。
3. 悪臭や膿、発熱などの感染兆候がある場合
床ずれ部位から悪臭がする、黄色や緑色の膿が出ている、周囲の皮膚が熱を持っている、あるいは患者さまに発熱が見られる場合は、細菌感染を起こしている可能性が高いです。感染は床ずれの治癒を著しく遅らせ、全身状態にも影響を及ぼすため、緊急性が高いと考えられます[6]。
4. 壊死組織(黒色や黄色の痂皮)がある場合
床ずれ部位が黒く変色している(壊死組織)場合や、黄色いべっとりとした痂皮で覆われている場合は、壊死組織の除去(デブリードマン)が必要となることがあります。これは専門的な処置であり、皮膚科医の判断が必要です。
5. 痛みが強い、または患者さまの全身状態が悪化している場合
床ずれ部位の痛みが強い、食欲不振、倦怠感、意識レベルの低下など、患者さまの全身状態が悪化している場合は、床ずれが原因である可能性も考慮し、速やかに医療機関を受診してください。
当院では、オンライン診療の導入により、在宅で療養されている患者さまやご家族からの相談にも迅速に対応できるよう努めています。特に、初期の段階で「これって床ずれでしょうか?」というご相談をいただくことで、適切なアドバイスや受診の判断を早期に行うことができ、重症化を防ぐことに繋がっています。発赤の段階で写真を送っていただき、オンラインで状況を判断し、必要に応じて来院を促すといった診療フローも活用しています。
皮膚科での床ずれ治療と在宅ケアとの連携

皮膚科では、床ずれの進行度や感染の有無に応じて、様々な治療を行います。在宅ケアと連携しながら、患者さまの回復をサポートします。
皮膚科での主な治療法
- 創傷被覆材(ドレッシング材)による治療: 傷の状態に応じて、湿潤環境を保つハイドロコロイド、滲出液を吸収するポリウレタンフォーム、感染予防の銀含有ドレッシングなど、様々な種類の被覆材を使い分けます[7]。
- 壊死組織の除去(デブリードマン): メスやハサミを用いた外科的デブリードマン、酵素剤を用いた化学的デブリードマン、自家融解を促す自己融解デブリードマンなどがあります。
- 感染症に対する治療: 細菌感染が疑われる場合は、抗菌薬の内服や外用を行います。
- 陰圧閉鎖療法(NPWT): 創部に陰圧をかけることで、滲出液の除去、肉芽形成の促進、浮腫の軽減などを図る治療法です。重度の床ずれに適用されることがあります。
- 外科的治療: 広範囲に及ぶ重度の床ずれや、骨髄炎を合併している場合などには、皮膚移植などの外科的処置が必要となることがあります。
当院では、処方後のフォローアップでは、副作用の有無だけでなく、治療を継続できているか、効果の実感があるかを確認するようにしています。特に、ドレッシング材の交換方法や皮膚の洗浄方法については、ご家族が在宅で適切に行えるよう、具体的な指導を重視しています。
多職種連携の重要性
床ずれケアは、医師だけでなく、看護師、理学療法士、栄養士、ケアマネージャー、福祉用具専門相談員など、様々な専門職が連携して行うことが重要です。当院では、地域の訪問看護ステーションや介護事業所と密に連携を取り、患者さまの全身状態や生活環境を総合的に評価し、最適なケアプランを立てるよう心がけています。例えば、訪問看護師から床ずれの状態について定期的な報告を受け、それに基づいて治療方針を調整するといった連携も行っています。
まとめ
在宅での床ずれケアは、患者さまの生活の質を維持し、重症化を防ぐために非常に重要です。定期的な体位変換、皮膚の清潔保持とスキンケア、適切な栄養管理、そして体圧分散寝具の活用が基本となります。しかし、発赤が消えない、水疱や皮膚の損傷が見られる、悪臭や膿、発熱などの感染兆候がある、壊死組織がある、痛みが強い、全身状態が悪化しているといった症状が見られた場合は、速やかに皮膚科を受診することが不可欠です。早期の専門的な介入により、適切な治療とケアを受けることで、床ずれの治癒を促進し、合併症のリスクを低減することができます。ご家族や介護者の方は、日々の観察を怠らず、少しでも異常を感じたら迷わず医療機関に相談しましょう。
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よくある質問(FAQ)
- 日本老年医学会:高齢者医療ガイドライン 2017 褥瘡(床ずれ)診療ガイドライン. 2017.
- 日本褥瘡学会:褥瘡の病態と予防. 日本褥瘡学会誌 2008; 10(4): 408-414.
- 日本褥瘡学会:褥瘡発生のリスクアセスメント. 日本褥瘡学会誌 2013; 15(3): 219-224.
- 日本老年医学会:高齢者医療ガイドライン 2017 褥瘡(床ずれ)診療ガイドライン. 2017. (P.35)
- National Pressure Ulcer Advisory Panel (NPUAP): Pressure Injury Stages.
- 日本褥瘡学会:褥瘡の感染管理. 日本褥瘡学会誌 2013; 15(3): 244-250.
- 日本褥瘡学会:褥瘡の局所治療. 日本褥瘡学会誌 2013; 15(3): 251-258.
