- ✓ 補中益気湯は、体力や気力の低下、疲労感、食欲不振などに用いられる漢方薬です。
- ✓ 免疫機能の改善や術後の回復促進など、幅広い効果が臨床で期待されています。
- ✓ 副作用は比較的少ないですが、体質や他の薬剤との併用には注意が必要です。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)とは?

補中益気湯は、気力や体力の低下した状態を改善するために用いられる代表的な漢方薬です。その名前の通り、「中(胃腸)を補い、気を益す(増やす)」作用を持つとされており、疲労倦怠感、食欲不振、寝汗、虚弱体質、病後の体力低下、術後の回復促進など、幅広い症状に適用されます[4]。当院の皮膚科外来では、アトピー性皮膚炎や帯状疱疹後の疲労感、あるいは免疫力低下による皮膚トラブルの再発予防など、全身状態の改善を目的として処方する機会も少なくありません。
補中益気湯は、以下の10種類の生薬から構成されています[4]。
- 黄耆(オウギ):気を補い、免疫力を高める
- 人参(ニンジン):滋養強壮、疲労回復
- 白朮(ビャクジュツ):胃腸を丈夫にし、水分代謝を改善
- 甘草(カンゾウ):炎症を抑え、他の生薬の調和
- 当帰(トウキ):血を補い、血行を促進
- 柴胡(サイコ):気の巡りを改善し、炎症を抑える
- 升麻(ショウマ):気を持ち上げ、解熱作用
- 陳皮(チンピ):気の巡りを改善し、消化を助ける
- 大棗(タイソウ):滋養強壮、精神安定
- 生姜(ショウキョウ):体を温め、消化を助ける
これらの生薬が複合的に作用することで、全身の機能改善に寄与すると考えられています。特に、胃腸の働きを整えることで、栄養の吸収効率を高め、結果として体力や免疫力の向上につながるという考え方が漢方医学の根底にあります。
- 気虚(ききょ)とは
- 漢方医学における体質の一つで、「気」と呼ばれる生命エネルギーが不足している状態を指します。疲労感、倦怠感、食欲不振、息切れ、風邪をひきやすいなどの症状が特徴的で、補中益気湯はこのような気虚の状態を改善する目的で用いられます。
補中益気湯の期待される効果と作用機序とは?
補中益気湯は、気力・体力の低下を改善するだけでなく、様々な臨床効果が報告されています。主な効果としては、疲労回復、免疫機能の改善、消化器機能の向上、術後の回復促進などが挙げられます。実際の診察では、患者さまから「疲れが取れやすくなった」「風邪をひきにくくなった」といった声をお聞きすることが多く、全身状態の底上げに貢献していると実感しています。
疲労回復と体力向上
補中益気湯は、慢性的な疲労感や倦怠感の改善に効果が期待されます。特に、病後や術後の体力低下、あるいは加齢に伴う虚弱体質の方に対して、滋養強壮作用を発揮すると考えられています。当院では、帯状疱疹後の神経痛や疲労感に悩む患者さまに処方することがありますが、多くの方が数週間で「体が楽になった」と報告されます。これは、配合生薬が胃腸の働きを整え、栄養吸収を促進することで、全身のエネルギー産生をサポートするためと考えられます。
免疫機能の改善
補中益気湯は、免疫力の向上にも寄与すると考えられています。動物実験では、免疫抑制状態のマウスにおいて、ヘルペスウイルス感染に対する防御効果を示すことが報告されています[2]。また、抗がん剤治療中の患者さまの免疫力低下を改善する目的で用いられることもあります。臨床の現場では、繰り返す口唇ヘルペスや尋常性疣贅(いぼ)など、免疫が関与する皮膚疾患の患者さまに、体質改善の一環として補中益気湯を処方することがあります。免疫細胞の活性化や、サイトカイン産生の調整に関与する可能性が示唆されています[1]。
消化器機能の改善
食欲不振や胃腸の不調は、気虚の重要な症状の一つです。補中益気湯は、胃腸の働きを活性化させる生薬(白朮、陳皮など)を多く含んでおり、消化吸収能力の改善に役立ちます。これにより、全身への栄養供給がスムーズになり、結果として体力や気力の回復につながります。腎下垂の患者さまにおいて、補中益気湯の投与により症状の改善が見られたという報告もあります[3]。
術後・病後の回復促進
手術後や病気からの回復期は、体力や免疫力が低下しやすく、回復が遅れることがあります。補中益気湯は、このような状態の回復を早め、全身状態を良好に保つ目的で用いられます。特に、高齢者や虚弱体質の患者さまにおいて、術後の合併症予防や早期回復に役立つ可能性があります。当院では、皮膚腫瘍切除術後の患者さまで、術後の疲労感が強い方や食欲が落ちている方に、回復を促す目的で処方することがあります。患者さまからは「術後のだるさが軽減された」「食事が美味しく感じられるようになった」というフィードバックをいただくことが多いです。
補中益気湯の用法・用量と服用時の注意点

補中益気湯の用法・用量は、添付文書に準拠して適切に服用することが重要です[4]。自己判断での増量や減量は避け、必ず医師の指示に従ってください。
一般的な用法・用量
通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与します。年齢、体重、症状により適宜増減されます[4]。
- 食前:食事の30分〜1時間前
- 食間:食事と食事の間で、食後2時間程度
漢方薬は空腹時に服用することで、生薬成分の吸収が良くなると考えられています。お湯に溶かして温かい状態で服用すると、より効果的であると指導することが多いです。当院では、患者さまの生活スタイルに合わせて、無理なく続けられる服用方法を提案しています。
服用時の注意点
- 他の薬剤との併用:他の漢方薬や西洋薬との併用により、相互作用が生じる可能性があります。特に、甘草を含む他の薬剤との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高めることがあるため注意が必要です。必ず医師や薬剤師に相談してください。
- アレルギー歴:過去に生薬や他の薬剤でアレルギー反応を起こしたことがある場合は、事前に医師に伝えてください。
- 妊娠・授乳中の方:妊娠中または授乳中の方は、服用前に必ず医師に相談してください。
- 高齢者・小児:高齢者や小児への投与は、慎重に行う必要があります。特に小児では、用法・用量を厳守し、保護者の指導のもとで服用させてください。
漢方薬は体質や症状によって効果が異なります。自己判断で服用を開始せず、必ず専門の医師や薬剤師にご相談ください。特に、症状が改善しない場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診してください。
補中益気湯の副作用と注意すべき症状
補中益気湯は比較的安全性の高い漢方薬ですが、全く副作用がないわけではありません。添付文書に記載されている副作用や、臨床で経験する可能性のある症状について解説します[4]。当院の診察では、服用を開始する際に、起こりうる副作用について丁寧に説明し、不安なく治療に臨んでいただけるよう努めています。
重大な副作用
頻度は稀ですが、以下のような重大な副作用が報告されています。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
- 偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛が現れ、徐々に強くなる。低カリウム血症、血圧上昇、むくみ、体重増加などの症状を伴うことがあります。甘草の過剰摂取や、他の甘草含有製剤との併用によりリスクが高まります。
- ミオパチー:偽アルドステロン症の結果として生じることがあり、筋肉の痛み、脱力感、CK(CPK)上昇を伴います。
- 肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなどの上昇を伴う肝機能障害や、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れることがあります。
その他の副作用
比較的頻度は低いですが、以下のような症状が現れることがあります。これらの症状が続く場合や悪化する場合は、医師や薬剤師に相談してください。
- 消化器症状:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢、腹痛など。特に胃腸が弱い方で起こりやすい傾向があります。
- 皮膚症状:発疹、じんましんなど。アレルギー体質の方でまれに報告されます。
- その他:動悸、のぼせ、倦怠感など。
皮膚科の日常診療では、漢方薬の服用中に発疹を訴える患者さまもいらっしゃいます。その際は、他の薬剤との関連性や、体質的な要因を考慮し、必要に応じて服用の中止や他の漢方薬への切り替えを検討します。副作用の発生頻度は個人差が大きく、また体質によっても異なります。少しでも気になる症状があれば、遠慮なくご相談ください。
補中益気湯に関する患者さまからのご質問

補中益気湯とジェネリック医薬品について
補中益気湯は、ツムラから「ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用)」として販売されていますが、他にも複数のメーカーから同成分の漢方製剤が製造・販売されています。これらは一般的に「ジェネリック医薬品」という概念とは少し異なりますが、同じ生薬配合の漢方製剤として、同等の効果が期待されます。
| 項目 | ツムラ補中益気湯 | 他社製剤(例:コタロー、クラシエなど) |
|---|---|---|
| 製品名 | ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用) | 補中益気湯エキス顆粒(メーカー名) |
| 成分 | 補中益気湯エキス | 補中益気湯エキス |
| 生薬構成 | 黄耆、人参、白朮、甘草、当帰、柴胡、升麻、陳皮、大棗、生姜 | 同上(配合比はメーカーにより微差あり) |
| 保険適用 | あり | あり |
| 剤形 | 顆粒 | 顆粒、錠剤など |
一般的に、医療用漢方製剤は保険適用となります。どのメーカーの製剤を処方するかは、医師の判断や薬局の在庫状況によって異なりますが、有効成分である「補中益気湯エキス」としての効果は同等と考えられています。当院では、患者さまに服用しやすい剤形や味なども考慮し、複数の選択肢の中から最適なものをご提案する場合があります。例えば、顆粒が苦手な方には錠剤タイプを検討することもあります。
まとめ
補中益気湯は、気力や体力の低下、疲労感、食欲不振など、全身の虚弱状態を改善する目的で広く用いられる漢方薬です。免疫機能の向上や術後の回復促進など、多岐にわたる効果が期待されており、皮膚科領域においても、全身状態の改善を通じて皮膚疾患の治療をサポートする重要な役割を担っています。服用に際しては、用法・用量を守り、副作用に注意することが大切です。気になる症状や疑問があれば、いつでも医師や薬剤師にご相談ください。
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よくある質問(FAQ)
- Ning Qu, Miyuki Kuramasu, Kenta Nagahori et al.. Co-Administration of the Traditional Medicines Hachimi-Jio-Gan and Hochu-Ekki-To Can Reverse Busulfan-Induced Aspermatogenesis.. International journal of molecular sciences. 2020. PMID: 32138301. DOI: 10.3390/ijms21051716
- T Kido, K Mori, H Daikuhara et al.. The protective effect of hochu-ekki-to (TJ-41), a Japanese herbal medicine, against HSV-1 infection in mitomycin C-treated mice.. Anticancer research. 2000. PMID: 11131680
- A Horii, M Maekawa. [Clinical evaluation of hochu-ekki-to on the patients with renal ptosis].. Hinyokika kiyo. Acta urologica Japonica. 1989. PMID: 2977060
- 補中益気湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
