- ✓ マラセチア菌は常在菌で、増殖すると脂漏性皮膚炎や毛包炎などの皮膚疾患を引き起こします。
- ✓ 症状は赤み、かゆみ、フケ、ニキビ様のぶつぶつなどで、頭皮や顔、胸など皮脂の多い部位に現れやすいです。
- ✓ 治療は主に抗真菌薬の外用・内服と、生活習慣の見直しが重要です。
マラセチア関連皮膚疾患は、皮膚の常在菌であるマラセチア菌が過剰に増殖することで発症する皮膚トラブルです。特に脂漏性皮膚炎やマラセチア毛包炎は、多くの人が経験する可能性のある一般的な疾患です。この記事では、マラセチア関連皮膚疾患のメカニズムから症状、診断、治療法、そして日常生活での注意点まで、専門的な視点から詳しく解説します。
マラセチア菌とは?そのメカニズムを解説

マラセチア菌は、ヒトの皮膚に常在する酵母様真菌の一種です。この菌は皮脂を栄養源として増殖する特性があり、特に皮脂腺が発達している部位(頭皮、顔、胸、背中など)に多く存在します[1]。通常は無害ですが、皮脂の過剰分泌、免疫力の低下、高温多湿な環境などの要因が重なると、異常増殖を起こし、炎症や皮膚症状を引き起こします[2]。
マラセチア菌が皮脂を分解する際に生成される脂肪酸が、皮膚に刺激を与え、炎症反応を誘発すると考えられています。この炎症が、赤み、かゆみ、フケ、ニキビ様のぶつぶつといった症状につながります。マラセチア菌にはいくつかの種類がありますが、皮膚疾患に関与する主な種としては、マラセチア・グロボーサ (Malassezia globosa) やマラセチア・フルフル (Malassezia furfur) などが知られています[4]。
- 常在菌(じょうざいきん)
- ヒトの皮膚や粘膜に常に生息している微生物のこと。通常は病原性を示さず、一部は宿主にとって有益な働きをすることもありますが、バランスが崩れると病気を引き起こすことがあります。
- 酵母様真菌(こうぼようしんきん)
- 真菌(カビの仲間)の一種で、単細胞で増殖し、酵母のように丸い形をしているものを指します。マラセチア菌もこのグループに属します。
マラセチア関連皮膚疾患にはどのような種類がありますか?
マラセチア菌の異常増殖によって引き起こされる主な皮膚疾患には、脂漏性皮膚炎とマラセチア毛包炎があります。これらはそれぞれ異なる特徴を持ちますが、共通して皮脂の多い部位に発症しやすい傾向があります。
脂漏性皮膚炎の症状と特徴
脂漏性皮膚炎は、頭皮、顔面(特に鼻の周り、眉間、耳の裏)、胸の中央、脇の下など、皮脂腺が活発な部位に発生しやすい慢性的な炎症性皮膚疾患です。主な症状は以下の通りです。
- 赤み(紅斑): 患部が赤くなります。
- フケ・落屑(らくせつ): 頭皮では乾燥したフケ、顔面では黄色がかった脂っぽいフケやカサカサした皮膚の剥がれが見られます。
- かゆみ: 程度は様々ですが、かゆみを伴うことが多いです。
- 脂っぽさ: 患部がベタつくことがあります。
乳児期に発症する「乳児脂漏性皮膚炎」と、思春期以降に発症する「成人脂漏性皮膚炎」に分けられます。成人脂漏性皮膚炎は慢性化しやすく、季節の変わり目やストレス、睡眠不足などで悪化することがあります。当院では、頭皮のフケとかゆみに悩んで「シャンプーを変えても改善しない」と相談される患者さまが少なくありません。診察の際には、頭皮だけでなく顔や胸の皮膚の状態も確認し、全体的な皮脂の分泌状況や生活習慣について詳しく伺うようにしています。
マラセチア毛包炎の症状と特徴
マラセチア毛包炎は、毛穴にマラセチア菌が感染して炎症を起こす疾患で、特に胸、背中、肩、上腕など、皮脂腺が多く、汗をかきやすい部位に好発します。症状は以下の通りです。
- 赤いぶつぶつ(丘疹): 毛穴に一致して、直径2〜3mm程度の赤い小さなぶつぶつが多数出現します。
- かゆみ: 強いかゆみを伴うことが多く、特に汗をかいた後や入浴後に悪化しやすいです。
- 膿疱(のうほう): ぶつぶつの先端に小さな膿を持つことがあります。
ニキビ(尋常性ざ瘡)と非常に似ているため、自己判断でニキビ治療薬を使用しても改善しないケースが多く見られます。当院でも「背中のニキビが治らない」と来院される患者さまの中に、マラセチア毛包炎の方が多くいらっしゃいます。問診の際に、かゆみの有無や発疹の形状、治療歴などを詳しく確認し、鑑別診断に努めています。
診断はどのように行われますか?

マラセチア関連皮膚疾患の診断は、主に臨床症状の観察と、皮膚の検査によって行われます。
視診と問診
医師が患部の状態を直接観察し、症状の特徴(赤み、フケ、ぶつぶつの形状、分布など)を確認します。同時に、患者さまの症状の経過、かゆみの有無、生活習慣、既往歴、使用しているスキンケア製品や薬剤などについて詳しく問診を行います。特に、症状が悪化する要因や、ニキビ治療薬の効果の有無などは重要な情報となります。
顕微鏡検査(KOH直接鏡検)
確定診断のためには、患部から採取した皮膚のフケや角質、膿疱の内容物などを顕微鏡で観察する検査が有効です。この検査では、水酸化カリウム(KOH)溶液を用いて検体を処理し、マラセチア菌の特徴的な形態(酵母細胞や偽菌糸)を確認します。この検査は比較的短時間で結果が得られ、マラセチア菌の存在を直接的に確認できるため、脂漏性皮膚炎やマラセチア毛包炎の診断において非常に重要です[1]。
培養検査
必要に応じて、マラセチア菌を培養し、種類を特定したり、抗真菌薬に対する感受性を調べたりすることもありますが、日常的な診断では顕微鏡検査が主流です。
自己判断で市販薬を使用しても改善しない場合や、症状が悪化する場合は、早めに皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。特にマラセチア毛包炎はニキビと誤診されやすいため、専門医の診察が不可欠です。
マラセチア関連皮膚疾患の治療法とは?
マラセチア関連皮膚疾患の治療は、主にマラセチア菌の増殖を抑える抗真菌薬の使用と、炎症を鎮める対症療法、そして再発予防のための生活習慣の改善が柱となります。
外用薬による治療
軽症の場合や、特定の部位に症状が限られている場合は、外用薬が第一選択となります。当院では、患者さまの症状の程度や部位、肌質に合わせて最適な外用薬を選択しています。
- 抗真菌薬: マラセチア菌の増殖を抑える成分(ケトコナゾール、エコナゾール、ルリコナゾールなど)を含むクリーム、ローション、シャンプーなどが処方されます[3]。特に頭皮の脂漏性皮膚炎には、抗真菌成分配合のシャンプーが有効です。
- ステロイド外用薬: 炎症が強く、赤みやかゆみがひどい場合には、炎症を抑えるためにステロイド外用薬が短期間併用されることがあります。しかし、ステロイドはマラセチア菌の増殖を助長する可能性があるため、長期連用は避けるべきです。
処方後のフォローアップでは、副作用の有無だけでなく、治療を継続できているか、効果の実感があるかを確認するようにしています。特に頭皮のシャンプーは「毎日使うのが大変」という声も聞かれるため、使用頻度や洗い方について丁寧に指導しています。
内服薬による治療
外用薬で効果が不十分な場合や、症状が広範囲に及ぶ重症例、再発を繰り返す場合には、内服薬が検討されます。
- 抗真菌薬: イトラコナゾールやフルコナゾールなどの経口抗真菌薬が処方されます[3]。これらの薬は全身に作用し、マラセチア菌の増殖を効果的に抑制します。内服薬は肝機能に影響を与える可能性があるため、定期的な血液検査で肝機能のモニタリングが必要となる場合があります。
内服治療を始めて1ヶ月ほどで「かゆみが落ち着いて、ぶつぶつも減ってきた」とおっしゃる方が多いです。しかし、症状が改善しても自己判断で中断せず、医師の指示に従って治療を継続することが再発防止につながります。
マラセチア関連皮膚疾患の治療薬比較
| 項目 | 外用抗真菌薬 | 内服抗真菌薬 |
|---|---|---|
| 主な適用 | 軽症〜中等症、局所的な症状 | 重症、広範囲、外用薬無効例、再発例 |
| 作用範囲 | 塗布部位のみ | 全身 |
| 効果発現 | 比較的緩やか | 比較的速やか |
| 主な副作用 | 刺激感、かぶれなど局所的 | 肝機能障害、消化器症状など全身的 |
| 治療期間 | 数週間〜数ヶ月 | 数週間〜数ヶ月(医師の指示による) |
日常生活でできる対策はありますか?

マラセチア関連皮膚疾患は再発しやすい傾向があるため、治療と並行して日常生活での対策が非常に重要です。当院では、治療効果を最大限に引き出し、再発を防ぐために、以下の点について患者さまにアドバイスしています。
スキンケアと衛生管理
- 適切な洗顔・洗髪: 皮脂の過剰分泌がマラセチア菌の増殖を促すため、低刺激性の洗浄料を使用し、優しく丁寧に洗顔・洗髪を行い、余分な皮脂や汚れを洗い流すことが大切です。頭皮の脂漏性皮膚炎の場合、抗真菌成分配合のシャンプーを週に数回使用すると効果的です。
- 保湿: 洗顔・入浴後は、肌が乾燥しないように保湿剤でしっかり保湿しましょう。ただし、油分の多い保湿剤はマラセチア菌の栄養源となる可能性があるため、オイルフリーやノンコメドジェニックの製品を選ぶのが望ましいです。
- 汗の処理: 汗をかいたら放置せず、清潔なタオルで優しく拭き取るか、シャワーを浴びて洗い流しましょう。特に運動後や暑い季節は注意が必要です。
- 清潔な衣類: 汗を吸いやすい綿などの素材の衣類を選び、こまめに着替えることで、皮膚を清潔に保ち、マラセチア菌の増殖を抑えることができます。
生活習慣の見直し
- バランスの取れた食事: 脂質の多い食事や糖分の過剰摂取は皮脂の分泌を促進する可能性があるため、バランスの取れた食生活を心がけましょう。ビタミンB群は皮膚の健康維持に重要とされています。
- 十分な睡眠とストレス管理: 睡眠不足やストレスは免疫力の低下を招き、皮膚の状態を悪化させる要因となります。十分な睡眠をとり、ストレスを上手に解消する方法を見つけることが大切です。
- 紫外線対策: 過度な紫外線は皮膚にダメージを与え、炎症を悪化させる可能性があります。日中の外出時には帽子や日焼け止めを使用し、紫外線対策を心がけましょう。
実際の診療では、患者さまのライフスタイルに合わせて、無理なく続けられる対策を一緒に考えるようにしています。「食生活を見直したら肌の調子が良くなった」という声も多く、内側からのケアも重要だと実感しています。
まとめ
マラセチア関連皮膚疾患である脂漏性皮膚炎やマラセチア毛包炎は、皮膚の常在菌であるマラセチア菌の異常増殖によって引き起こされる炎症性疾患です。頭皮や顔、胸、背中など皮脂の多い部位に赤み、かゆみ、フケ、ニキビ様のぶつぶつなどの症状が現れます。診断は視診と顕微鏡検査が中心で、治療には抗真菌薬の外用・内服が用いられます。再発を防ぐためには、適切なスキンケアと、バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理といった生活習慣の見直しが不可欠です。症状に心当たりのある方は、自己判断せずに皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。
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よくある質問(FAQ)
- Ditte M L Saunte, George Gaitanis, Roderick James Hay. Malassezia-Associated Skin Diseases, the Use of Diagnostics and Treatment.. Frontiers in cellular and infection microbiology. 2021. PMID: 32266163. DOI: 10.3389/fcimb.2020.00112
- J Faergemann. Pityrosporum infections.. Journal of the American Academy of Dermatology. 1994. PMID: 8077501. DOI: 10.1016/s0190-9622(08)81261-3
- Kaiqin Wang, Lu Cheng, Wenshuang Li et al.. Susceptibilities of Malassezia strains from pityriasis versicolor, Malassezia folliculitis and seborrheic dermatitis to antifungal drugs.. Heliyon. 2020. PMID: 32613106. DOI: 10.1016/j.heliyon.2020.e04203
- Blake E. Vest, Kevin Krauland, Mami Tajima. Malassezia Furfur. Nihon Ishinkin Gakkai zasshi = Japanese journal of medical mycology. 2026. PMID: 31971731. DOI: 10.3314/jjmm.46.163
