茯苓飲合半夏厚朴湯の効果と副作用|医師が解説
- ✓ 茯苓飲合半夏厚朴湯は胃腸症状と精神神経症状を同時に改善する漢方薬です。
- ✓ 胃部膨満感、吐き気、食欲不振に加え、不安感や喉のつかえ感(ヒステリー球)に効果が期待されます。
- ✓ 副作用は比較的少ないですが、体質に合わない場合は消化器症状や発疹などに注意が必要です。
茯苓飲合半夏厚朴湯(ツムラ116)とは?その特徴と適応

茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)は、胃腸の不調と精神的な不安定さを同時に改善する目的で用いられる漢方薬です。特に、胃部の膨満感や吐き気、食欲不振といった消化器症状に加え、喉のつかえ感(ヒステリー球)や不安感、動悸といった精神神経症状を訴える方に適応があるとされています[1]。
この漢方薬は、胃腸機能を整える「茯苓飲(ブクリョウイン)」と、精神的な症状や喉のつかえ感を改善する「半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)」の二つの処方を組み合わせたものです。当院の皮膚科外来では、湿疹や蕁麻疹などの皮膚症状に加えて、ストレスによる胃腸の不調や不安感を訴える患者さまに、全身状態を整える目的で処方することがあります。特に、自律神経の乱れが皮膚症状に影響していると考えられるケースでは、この薬が選択肢の一つとなります。
茯苓飲合半夏厚朴湯の構成生薬と作用メカニズム
茯苓飲合半夏厚朴湯は、以下の生薬から構成されています[1]。
- 茯苓(ブクリョウ):利水作用があり、体内の余分な水分を排出し、むくみや胃もたれを改善します。
- 蒼朮(ソウジュツ)/白朮(ビャクジュツ):胃腸の働きを助け、消化吸収を促進し、体内の水分代謝を整えます。
- 人参(ニンジン):胃腸の機能を高め、体力や気力を補い、疲労感を軽減します。
- 生姜(ショウキョウ):胃を温め、消化を助け、吐き気を抑える作用があります。
- 陳皮(チンピ):気の巡りを良くし、胃の膨満感や吐き気を和らげます。
- 甘草(カンゾウ):他の生薬の調和をとり、胃腸の痙攣を抑える作用があります。
- 半夏(ハンゲ):吐き気や嘔吐を抑え、喉のつかえ感を緩和します。
- 厚朴(コウボク):気の滞りを改善し、胃腸の膨満感や喉のつかえ感を和らげます。
- 蘇葉(ソヨウ):気の巡りを良くし、精神的な緊張を和らげる作用があります。
これらの生薬が複合的に作用することで、胃腸の機能を正常化し、体内の余分な水分(「水湿」)を排出し、さらに気の巡りを改善して精神的な不調を和らげるというメカニズムが期待されます。特に、ストレスによって胃腸の動きが悪くなり、その結果として不安感や喉の違和感が生じるような状態に有効と考えられています。
- ヒステリー球とは
- 喉に異物感や圧迫感があるにもかかわらず、検査では異常が見つからない状態を指します。精神的なストレスや自律神経の乱れが関与していることが多いとされています。
茯苓飲合半夏厚朴湯の期待される効果とは?
茯苓飲合半夏厚朴湯は、主に胃腸症状と精神神経症状の双方に効果が期待されます。添付文書には「気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴うものの次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声」と記載されています[1]。
具体的な効果の例
- 胃部膨満感・胃もたれ:胃の動きが悪く、ガスが溜まりやすい、食後に胃が重いといった症状の改善。
- 吐き気・嘔吐:乗り物酔いやつわり、ストレス性の吐き気など、様々な原因による吐き気の緩和。
- 食欲不振:胃腸機能の低下による食欲の減退を改善し、消化吸収を促進します。
- 喉のつかえ感(ヒステリー球):精神的な緊張やストレスによって生じる、喉の異物感や圧迫感を和らげます。
- 不安感・動悸:自律神経の乱れに伴う、漠然とした不安感や動悸、めまいなどの精神神経症状の緩和。
- つわり:妊娠中の吐き気や食欲不振といったつわり症状の軽減。
皮膚科の日常診療では、アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹の患者さまが、ストレスや疲労で症状が悪化し、同時に胃の不調や不安感を訴えるケースが少なくありません。このような場合、茯苓飲合半夏厚朴湯を併用することで、全身的なバランスを整え、皮膚症状の改善にも寄与する可能性があります。当院では、患者さまの体質や症状の全体像を把握した上で、適切な漢方薬の選択を心がけています。
実際の診察では、患者さまから「胃が張って苦しいだけでなく、何となくイライラしたり、喉に何か詰まっている感じがして落ち着かない」と質問されることがよくあります。このような訴えを聞いた際に、この処方を検討することが多いです。特に、ストレスが胃腸にきやすいタイプの方には、効果を実感しやすい傾向があると感じています。
茯苓飲合半夏厚朴湯の正しい用法・用量と服用上の注意点

茯苓飲合半夏厚朴湯は、その効果を最大限に引き出し、安全に服用するために、添付文書に記載された用法・用量を守ることが重要です。また、服用に際していくつかの注意点があります[1]。
用法・用量
通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口服用します。年齢や体重、症状によって適宜増減されることがあります。顆粒製剤の場合、お湯に溶かして温かい状態で服用すると、生薬の吸収が良くなると言われています。食間とは、食事と食事の間、食後約2時間を目安とします。
服用上の注意点
- 飲み忘れに注意:毎日決まった時間に服用することで、効果が安定しやすくなります。飲み忘れた場合は、気づいた時点で服用し、次の服用まで十分な間隔を空けてください。
- 他の薬剤との併用:他の漢方薬や西洋薬を服用している場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。特に、甘草を含む他の漢方薬との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があります。
- 妊娠・授乳中の服用:妊娠中または授乳中の場合は、服用前に医師に相談してください。特に、妊娠初期のつわりに対しては有効な場合がありますが、自己判断での服用は避けるべきです。
- 長期服用の場合:長期にわたって服用する場合は、定期的に医師の診察を受け、効果や副作用の有無を確認することが重要です。
処方する際は、患者さまに「漢方薬は即効性があるわけではないので、まずは2週間から1ヶ月程度続けて様子を見ましょう」と説明し、効果の感じ方や体調の変化を細かく確認するようにしています。特に、胃腸の症状は食事内容や生活習慣の影響も大きいため、併せて生活指導を行うこともあります。
漢方薬は体質や症状によって効果の現れ方が異なります。自己判断で服用を開始したり、用法・用量を変更したりすることは避け、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
茯苓飲合半夏厚朴湯の副作用はある?
茯苓飲合半夏厚朴湯は比較的副作用が少ない漢方薬とされていますが、全くないわけではありません。体質や体調によっては、いくつかの副作用が現れる可能性があります。主な副作用について、頻度別に解説します[1]。
重大な副作用
頻度は極めて稀ですが、以下の重大な副作用が報告されています。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
- 偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛が現れ、徐々に進行する。カリウム値の低下、血圧上昇、むくみなどの症状が見られることがあります。甘草の過剰摂取が原因となることがあります。
- ミオパチー:偽アルドステロン症の症状の一つとして、筋肉の障害(ミオパチー)が起こることがあります。
その他の副作用
比較的頻度が高い、または注意が必要な副作用は以下の通りです。
- 消化器症状:食欲不振、胃部不快感、吐き気、嘔吐、下痢、便秘など。
- 過敏症:発疹、じんましん、かゆみなど。
当院では茯苓飲合半夏厚朴湯を処方した患者さまから、比較的稀に「胃の調子が逆に悪くなった気がする」「少しお腹が緩くなった」というフィードバックをいただくことがあります。このような場合、体質に合っていない可能性も考慮し、服用を中止したり、他の漢方薬への切り替えを検討したりします。漢方薬は天然由来の成分ですが、体質との相性が非常に重要です。何か異変を感じたら、すぐに医師や薬剤師に相談してください。
茯苓飲合半夏厚朴湯に関する患者さまからのご質問
茯苓飲合半夏厚朴湯と関連する漢方薬の比較

茯苓飲合半夏厚朴湯は、胃腸症状と精神神経症状の両方にアプローチするユニークな漢方薬ですが、同様の症状に用いられる他の漢方薬も存在します。ここでは、代表的な関連処方との違いを比較します。
| 項目 | 茯苓飲合半夏厚朴湯 | 半夏厚朴湯 | 六君子湯 |
|---|---|---|---|
| 主な適応 | 胃腸症状(膨満感、吐き気、食欲不振)+精神神経症状(喉のつかえ、不安、動悸) | 精神神経症状(喉のつかえ、不安、動悸、咳) | 胃腸症状(食欲不振、胃もたれ、吐き気) |
| 構成生薬のポイント | 茯苓飲(胃腸強化)+半夏厚朴湯(精神安定) | 半夏、厚朴、蘇葉など(気の巡り、鎮咳) | 人参、白朮、茯苓、甘草など(胃腸機能改善、気虚改善) |
| 体質(証)の傾向 | 比較的虚弱〜中間で、胃腸が弱く神経質なタイプ | 比較的虚弱〜中間で、精神的な緊張が強いタイプ | 虚弱で、胃腸が非常に弱く、冷えやすいタイプ |
| 甘草の有無 | 有 | 無 | 有 |
この比較表からもわかるように、茯苓飲合半夏厚朴湯は、胃腸症状と精神神経症状が複合的に現れている場合に特に適しています。半夏厚朴湯は胃腸症状が軽度で精神症状が主である場合に、六君子湯は精神症状よりも胃腸の機能低下が顕著な場合に選択されることが多いです。
当院では、患者さまの主訴だけでなく、舌の状態、脈、お腹の診察(腹診)など、漢方医学的な診断基準に基づいて「証(体質や病状)」を判断し、最適な処方を選択しています。例えば、「胃の調子が悪いけど、喉のつかえ感はあまりない」という患者さまには六君子湯を、「胃の症状はほとんどなく、とにかく喉の違和感と不安感が強い」という患者さまには半夏厚朴湯を検討するなど、症状のバランスを見て使い分けについて説明する機会が多いです。
ジェネリック医薬品について
茯苓飲合半夏厚朴湯には、ツムラから販売されている「ツムラ茯苓飲合半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用)」の他に、複数の製薬会社からジェネリック医薬品(後発医薬品)が販売されています。
ジェネリック医薬品とは?
ジェネリック医薬品は、先発医薬品(新薬)と同じ有効成分を同じ量含み、同等の効き目(生物学的同等性)が認められた医薬品です。開発費用が抑えられるため、先発医薬品よりも安価で提供されることが特徴です。ジェネリック医薬品
茯苓飲合半夏厚朴湯のジェネリック医薬品
茯苓飲合半夏厚朴湯のジェネリック医薬品としては、例えば「コタロー茯苓飲合半夏厚朴湯エキス細粒」や「クラシエ茯苓飲合半夏厚朴湯エキス細粒」などがあります。これらは、ツムラの製品と同様に、気分がふさいで咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う諸症状に用いられます[1]。
当院では、患者さまの希望に応じてジェネリック医薬品を処方することが可能です。ジェネリック医薬品も先発医薬品と同等の品質と効果が保証されていますので、費用負担を抑えたい方は医師や薬剤師にご相談ください。実際の処方では、患者さまから「ジェネリックでも効果は同じですか?」と質問されることがよくありますが、有効成分は同じであり、効果に差はないことを丁寧に説明しています。
まとめ
茯苓飲合半夏厚朴湯(ツムラ116)は、胃腸の不調と精神的な不安定さを同時に改善する漢方薬です。胃部膨満感、吐き気、食欲不振といった消化器症状に加え、喉のつかえ感(ヒステリー球)、不安感、動悸などの精神神経症状に効果が期待されます。用法・用量を守り、体質に合わせた服用が重要です。重大な副作用は稀ですが、偽アルドステロン症などに注意し、異変を感じた場合は速やかに医療機関を受診してください。ジェネリック医薬品も利用可能であり、費用負担を抑えたい場合は選択肢の一つとなります。患者さま一人ひとりの体質や症状を総合的に判断し、適切な漢方薬を選択することが治療の成功に繋がります。
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