- ✓ 加味帰脾湯は心身の疲労や不眠、精神不安などに用いられる漢方薬です。
- ✓ 添付文書に記載された用法・用量を守り、副作用の兆候に注意しながら服用することが重要です。
- ✓ 臨床では患者さまの体質や症状の変化を細かく確認し、継続的な治療をサポートします。
加味帰脾湯(カミキヒトウ)とは?その特徴と適応

加味帰脾湯(ツムラ137)は、心身の疲労や不眠、精神不安、貧血傾向など、多岐にわたる症状に用いられる漢方薬です。この薬は、気血(きけつ)を補い、精神を安定させる作用があるとされています。特に、考えすぎたり、悩みすぎたりすることで心身が疲弊し、不眠や動悸、食欲不振などの症状が現れる「心脾両虚(しんぴりょうきょ)」の状態に適していると考えられています。
加味帰脾湯は、以下の14種類の生薬から構成されています[5]。
- 人参(にんじん):滋養強壮
- 白朮(びゃくじゅつ):消化器機能改善、利水
- 茯苓(ぶくりょう):利水、精神安定
- 黄耆(おうぎ):滋養強壮、免疫力向上
- 酸棗仁(さんそうにん):精神安定、不眠改善
- 竜眼肉(りゅうがんにく):滋養強壮、精神安定
- 遠志(おんじ):精神安定、去痰
- 当帰(とうき):補血、血行促進
- 柴胡(さいこ):精神安定、抗炎症
- 山梔子(さんしし):消炎、精神安定
- 甘草(かんぞう):緩和、解毒
- 生姜(しょうきょう):胃腸機能改善、発散
- 大棗(たいそう):滋養強壮、緩和
- 木香(もっこう):気の巡りを改善、消化促進
これらの生薬が複合的に作用することで、心身のバランスを整え、様々な症状の改善を目指します。当院の皮膚科外来では、ストレスが原因で皮膚症状が悪化する患者さまや、不眠により肌の調子が悪いと訴える患者さまに、加味帰脾湯を補助的に処方するケースも少なくありません。特に、精神的な要因が大きく関与する皮膚疾患(例: 慢性じんましん、アトピー性皮膚炎の掻痒感)の治療において、心身の安定を図る目的で検討することがあります。
- 心脾両虚(しんぴりょうきょ)
- 東洋医学の概念で、心(精神活動や血脈を司る)と脾(消化吸収や気血の生成を司る)の機能が共に低下した状態を指します。思考過多、ストレス、過労などが原因で起こりやすく、不眠、動悸、健忘、食欲不振、倦怠感、貧血傾向などの症状が現れるとされます。
加味帰脾湯の期待される効果と作用機序
加味帰脾湯は、その構成生薬の相乗効果により、多様な症状に対して効果を発揮すると考えられています。主な効果として、精神安定作用、滋養強壮作用、貧血改善作用などが挙げられます。
精神安定作用と不眠改善
加味帰脾湯に含まれる酸棗仁や茯苓、遠志などは、中枢神経系に作用し、精神的な興奮を鎮め、不安を和らげる効果が期待されます。近年の研究では、加味帰脾湯が急性ストレス下のラットにおいてオキシトシンの分泌を増加させることが示されており、ストレス緩和に寄与する可能性が示唆されています[4]。当院では、患者さまが「夜中に何度も目が覚める」「寝つきが悪い」といった不眠の訴えがある際に、加味帰脾湯を処方し、睡眠の質の改善を試みることがあります。実際の診察では、患者さまから「以前よりぐっすり眠れるようになった」「日中のだるさが減った」というフィードバックをいただくことが多いです。
滋養強壮と疲労回復
人参、黄耆、白朮、大棗などの生薬は、消化吸収機能を高め、気血の生成を促進することで、全身の滋養強壮に寄与します。これにより、倦怠感や疲労感の改善が期待できます。特に、慢性的な疲労感や食欲不振を伴う患者さまに対して、体力の回復を促す目的で処方されることがあります。また、加味帰脾湯が神経栄養因子を介して軸索損傷を軽減する可能性も示唆されており、神経系の健康維持にも関与するかもしれません[2]。
貧血傾向の改善
当帰は「血の道症」に用いられる代表的な生薬であり、補血作用があるとされています。加味帰脾湯は、この当帰を含むことで、貧血傾向のある患者さまの症状改善にも寄与すると考えられます。顔色が悪い、めまいがするといった症状を持つ患者さまに対して、他の治療と併用して処方することで、全身状態の改善を目指します。
その他の効果
加味帰脾湯は、高脂肪食による肥満や慢性炎症を改善する可能性も動物実験で示されています[3]。これは、加味帰脾湯が単に精神面だけでなく、全身の代謝や炎症反応にも影響を与える可能性を示唆しています。皮膚科の日常診療では、ストレスが原因でホルモンバランスが乱れ、ニキビや肌荒れが悪化するケースも多く、こうした全身的なアプローチが治療のポイントになります。
加味帰脾湯の正しい用法・用量と服用時の注意点

加味帰脾湯は、その効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを最小限に抑えるために、添付文書に記載された用法・用量を厳守することが非常に重要です。
用法・用量
一般的に、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与します。年齢や体重、症状に応じて適宜増減されることがあります[5]。当院では、患者さまの体質や症状の程度、他の服用薬との兼ね合いを考慮し、最適な用法・用量を決定しています。特に、高齢の患者さまや肝機能・腎機能に不安のある患者さまには、少量から開始し、慎重に経過を観察することが多いです。
- 食前:食事の約30分〜1時間前
- 食間:食事と食事の間(食後約2時間後)
漢方薬は、胃の中に食べ物がない状態で服用することで、生薬成分の吸収が良くなると考えられています。ただし、胃腸の弱い方や、食前・食間での服用が難しい場合は、食後に服用することも可能ですので、医師や薬剤師にご相談ください。
服用時の注意点
- 飲み忘れに注意:規則正しく服用することで、効果が安定しやすくなります。
- 他の薬との併用:他の漢方薬や西洋薬との飲み合わせによっては、効果が強まったり、副作用が出やすくなったりする可能性があります。必ず医師や薬剤師に相談してください。
- アレルギー歴:過去に薬や食べ物でアレルギー症状が出たことがある場合は、必ず医師に伝えてください。
- 妊娠・授乳中の方:妊娠中または授乳中の方は、服用前に必ず医師に相談してください。生薬の中には、妊娠中に注意が必要なものも含まれる場合があります。
- 長期服用の場合:長期間服用する場合は、定期的に医師の診察を受け、効果や副作用の有無を確認することが重要です。
自己判断で服用を中止したり、用量を変更したりすることは避けてください。症状が悪化したり、思わぬ副作用が生じたりする可能性があります。
加味帰脾湯の副作用と注意すべき症状
どのような医薬品にも副作用のリスクは存在し、加味帰脾湯も例外ではありません。服用中に体調の変化を感じた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談することが重要です。
重大な副作用
頻度は極めて稀ですが、以下のような重大な副作用が報告されています[5]。
- 間質性肺炎:発熱、咳、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)などが現れることがあります。加味帰脾湯による薬剤性肺障害の症例報告も存在します[1]。
- 偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、血圧上昇、むくみ、尿量減少などが現れることがあります。これは甘草の大量摂取や長期服用によって起こりやすいとされています。
- ミオパチー:偽アルドステロン症の症状に加え、横紋筋融解症が進行し、筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇などの症状が現れることがあります。
- 肝機能障害、黄疸:全身のだるさ、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、食欲不振などが現れることがあります。
これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。当院では、加味帰脾湯を処方する際には、これらの重大な副作用について患者さまに説明し、特に初期症状を見逃さないよう注意喚起を行っています。定期的な血液検査で肝機能などを確認することもあります。
その他の副作用
比較的頻度の高い副作用としては、消化器症状が挙げられます[5]。
- 消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢、腹痛など
- 皮膚:発疹、発赤、かゆみなど
これらの症状は、服用を続けるうちに軽快することもあれば、体質に合わないために現れることもあります。特に、胃腸が弱い患者さまでは、服用開始時に胃もたれや下痢を訴えることがまれにあります。このような場合は、服用方法の調整(食後服用にする、少量から始めるなど)や、他の漢方薬への変更を検討します。皮膚科の臨床経験上、漢方薬によるアレルギー反応は比較的少ないですが、発疹やかゆみが出た場合は、他の薬剤と同様に中止を検討します。
副作用の感じ方には個人差が大きいため、少しでも気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関にご相談ください。特に、複数の医療機関を受診している場合は、服用している全ての薬を医師や薬剤師に伝えるようにしてください。
加味帰脾湯に関する患者さまからのご質問
加味帰脾湯と他の漢方薬との比較

加味帰脾湯は心身の疲労や不眠、精神不安に用いられますが、似たような症状に用いられる漢方薬は他にも存在します。患者さまの体質や具体的な症状によって、最適な漢方薬は異なります。ここでは、代表的な漢方薬との比較を通じて、加味帰脾湯の立ち位置を明確にします。
| 項目 | 加味帰脾湯(ツムラ137) | 帰脾湯(ツムラ65) | 半夏厚朴湯(ツムラ16) |
|---|---|---|---|
| 主な適応 | 心身の疲労、不眠、精神不安、貧血傾向、考えすぎによる症状 | 心身の疲労、不眠、食欲不振、貧血傾向(加味帰脾湯から柴胡・山梔子を除いたもの) | 不安神経症、神経性胃炎、つわり、咽喉頭異常感症(ヒステリー球) |
| 特徴的な生薬 | 柴胡、山梔子(精神的なイライラや熱感を鎮める) | 柴胡、山梔子を含まない | 半夏、厚朴、茯苓、蘇葉、生姜(気の巡りを改善し、のどのつかえ感を解消) |
| 体質傾向 | 比較的虚弱で、精神的なストレスやイライラを伴うタイプ | 虚弱で、精神的な落ち込みや気力低下が目立つタイプ | 神経質で、のどのつかえ感や不安感が強いタイプ |
| 臨床での使い分け | 不眠や不安に加えて、イライラや口の渇きなど「熱」の症状がある場合に選択 | 加味帰脾湯よりも精神的な落ち着きや滋養強壮に重きを置く場合 | のどの異物感や吐き気などの身体症状を伴う不安症状に |
当院の診察の現場では、患者さまの主訴だけでなく、体格、顔色、舌の状態、脈の状態、腹部の所見など、漢方医学的な視点から総合的に判断し、これらの漢方薬を使い分けています。例えば、「不眠」という症状一つとっても、イライラして寝付けないのか、疲労困憊で眠りが浅いのか、不安で胸が苦しいのかによって、選択する漢方薬は変わってきます。加味帰脾湯は、特に精神的なストレスや過度の思考によって心身が疲弊し、イライラや熱感を伴う不眠や不安に有効な選択肢となります。
ジェネリック医薬品と保険適用について
加味帰脾湯には、ツムラから販売されている「ツムラ加味帰脾湯エキス顆粒(医療用)」の他に、複数のメーカーからジェネリック医薬品(後発医薬品)が販売されています。
ジェネリック医薬品とは?
ジェネリック医薬品は、先発医薬品(新薬)と同じ有効成分を、同じ量だけ含み、効き目や安全性が同等であると国から認められた医薬品です。開発費用が抑えられるため、先発医薬品よりも安価で提供されることが特徴です。加味帰脾湯の場合も、ツムラの製品以外に、クラシエ、コタロー、オースギなど、様々なメーカーから同等の漢方製剤が製造・販売されています。
- 有効成分:先発品と同じ
- 効能・効果:先発品と同じ
- 安全性:先発品と同等
- 価格:先発品よりも安価
当院では、患者さまの希望に応じてジェネリック医薬品の処方も可能です。ジェネリック医薬品に切り替えることで、薬代の負担を軽減できる場合がありますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。ただし、漢方薬の場合、メーカーによって賦形剤や製法がわずかに異なることがあり、味や溶けやすさに違いを感じる方もいらっしゃいます。効果に大きな違いはないとされていますが、気になる場合は元の製剤に戻すことも可能です。
保険適用について
医療機関で医師の診察を受け、加味帰脾湯が処方された場合、保険診療の対象となります。これにより、患者さまは医療費の一部負担で薬を受け取ることができます。保険適用されるかどうかは、医師が患者さまの症状や状態を総合的に判断し、医学的に必要と認めた場合に限られます。
ただし、個人輸入やインターネット通販などで購入した漢方薬は、保険適用外となります。また、医療機関で処方される医療用漢方製剤と、ドラッグストアなどで販売されている一般用漢方製剤では、配合されている生薬量や製法が異なる場合がありますので、自己判断での購入には注意が必要です。当院では、患者さまの症状に合わせた適切な診断と処方を行い、保険診療の範囲内で最適な治療を提供しています。
まとめ
加味帰脾湯(ツムラ137)は、心身の疲労、不眠、精神不安、貧血傾向など、ストレスや過労によって引き起こされる多様な症状に効果が期待される漢方薬です。その作用機序は、気血を補い、精神を安定させることにあり、特に考えすぎや悩みすぎで心身が疲弊した状態(心脾両虚)に適しています。
服用にあたっては、添付文書に記載された用法・用量を守り、重大な副作用である間質性肺炎や偽アルドステロン症、肝機能障害などの兆候に注意することが重要です。比較的稀ではありますが、胃部不快感や下痢などの消化器症状が現れることもあります。ジェネリック医薬品も存在し、保険適用で処方されるため、患者さまの負担軽減にもつながります。
当院では、患者さま一人ひとりの体質や症状、生活背景を丁寧に伺い、最適な漢方薬の選択と服用指導を行っています。服用中に気になる症状があれば、いつでも医師や薬剤師にご相談ください。加味帰脾湯は、心身のバランスを整え、穏やかな日常を取り戻すための一助となり得る漢方薬です。
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よくある質問(FAQ)
- Masahiro Tahara, Kei Yamasaki, Hiroaki Ikegami et al.. [A Case of Drug-Induced Lung Injury Caused by Kamikihito].. Journal of UOEH. 2019. PMID: 30867400. DOI: 10.7888/juoeh.41.51
- Takumi Nagamatsu, Kaori Kubota, Takuya Watanabe et al.. Kamikihito reduces β-amyloid25-35-induced axon damage via neurotrophic factors.. Journal of natural medicines. 2024. PMID: 38010476. DOI: 10.1007/s11418-023-01761-3
- Yuko Maejima, Shoko Yokota, Megumi Yamachi et al.. Traditional Japanese medicine Kamikihito ameliorates sucrose preference, chronic inflammation and obesity induced by a high fat diet in middle-aged mice.. Frontiers in endocrinology. 2024. PMID: 38742193. DOI: 10.3389/fendo.2024.1387964
- Mana Tsukada, Hideshi Ikemoto, Xiao-Pen Lee et al.. Kamikihito, a traditional Japanese Kampo medicine, increases the secretion of oxytocin in rats with acute stress.. Journal of ethnopharmacology. 2021. PMID: 34029638. DOI: 10.1016/j.jep.2021.114218
- 加味帰脾湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
