- ✓ 甘麦大棗湯は精神神経症状や小児夜泣きなどに用いられる漢方薬です。
- ✓ 主な副作用として偽アルドステロン症やミオパチーがあり、定期的な経過観察が重要です。
- ✓ 症状の改善には個人差があるため、医師と相談しながら継続的な服用が推奨されます。
甘麦大棗湯(ツムラ72)とは?その特徴と適応疾患

甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)は、漢方医学で「金匱要略」に収載されている処方で、精神神経症状や小児の夜泣きなどに用いられる漢方薬です。この薬は、甘草(カンゾウ)、小麦(ショウバク)、大棗(タイソウ)の3つの生薬から構成されており、それぞれが異なる作用を持つことで、心身の不調を穏やかに整えることを目指します。当院の皮膚科外来では、皮膚疾患に伴う精神的なストレスや不眠、小児の皮膚トラブルと関連する夜泣きなどの相談を受けることが多く、その際に選択肢の一つとして甘麦大棗湯を処方することがあります。
甘麦大棗湯の主な適応症は、夜泣き、ひきつけ、神経症、不眠症などとされています[5]。特に、精神的な興奮や不安、緊張が強く、それが身体症状として現れる「ヒステリー」や「神経過敏」といった状態に効果が期待されます。小麦は精神安定作用や鎮静作用があるとされ、甘草は鎮痛、抗炎症、抗アレルギー作用に加え、精神安定作用も報告されています。大棗は滋養強壮作用や緩和作用があり、これらが組み合わさることで、心身のバランスを整えると考えられています。実際の診察では、患者さまから「夜中に何度も目が覚めてしまう」「子供が夜泣きで困っている」と質問されることがよくあります。このような場合、西洋薬に抵抗がある方や、より穏やかな作用を希望される方に、甘麦大棗湯の服用を提案することがあります。
- 甘麦大棗湯
- 甘草、小麦、大棗の3つの生薬からなる漢方薬。精神神経症状、特に小児の夜泣きや神経症、不眠症などに用いられる。
甘麦大棗湯の期待される効果とは?
甘麦大棗湯は、その構成生薬の特性から、主に精神的な安定と身体の調和を促す効果が期待されます。特に、興奮しやすい、不安感が強い、些細なことでイライラするといった精神的な不安定さに対して、穏やかな作用をもたらすことが知られています。当院では、アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹などで皮膚症状が長期化し、それが原因で精神的なストレスや不眠を訴える患者さまに、補助的な治療として甘麦大棗湯を処方することがあります。皮膚の痒みが強くて夜眠れない、という訴えは非常に多く、このような場合に心身の緊張を和らげる目的で検討されます。
精神神経症状への効果
甘麦大棗湯は、神経症、不眠症、夜泣き、ひきつけといった精神神経症状に用いられます。小麦にはGABA(γ-アミノ酪酸)類似物質が含まれており、これが脳内の抑制性神経伝達物質として作用し、精神安定効果をもたらす可能性が示唆されています。甘草にはグリチルリチン酸が含まれ、抗炎症作用や抗アレルギー作用が知られていますが、精神的な興奮を鎮める作用も期待されます。皮膚科の臨床経験上、皮膚の痒みによる不眠が改善されることで、日中の精神的な安定にも繋がるケースを多く経験しています。外来で甘麦大棗湯を処方した患者さまから、「以前より夜中に起きる回数が減った」「子供の夜泣きが少し落ち着いた」というフィードバックをいただくことが多い印象です。
小児の夜泣き・ひきつけへの効果
小児の夜泣きやひきつけは、保護者にとって大きな負担となる症状です。甘麦大棗湯は、これらの症状に対して比較的穏やかに作用し、小児の心身の緊張を和らげることで改善を促すことが期待されます。特に、原因が特定できない夜泣きや、興奮しやすいお子さんのひきつけに対して、有効性が報告されています。実際の処方では、小児の場合、特に副作用のリスクを考慮し、少量から開始し、効果を見ながら調整することが一般的です。当院では、小児の患者さまの保護者に対して、服用方法や期待できる効果、注意点などを丁寧に説明し、安心して治療に取り組んでいただけるよう努めています。
用法・用量と服用上の注意点

甘麦大棗湯の用法・用量は、患者さまの年齢や症状、体質によって異なります。添付文書に記載されている標準的な用法・用量は以下の通りです[5]。
| 区分 | 1日量 | 服用回数 |
|---|---|---|
| 成人 | 7.5g | 2〜3回に分割 |
| 小児 | 年齢・体重に応じて減量 | 2〜3回に分割 |
通常、食前または食間に水またはぬるま湯で服用します。小児への投与では、年齢や体重を考慮し、適切な量を処方することが重要です。当院では、特に小児の患者さまに対しては、保護者の方に薬の飲ませ方や、万が一の副作用への対処法について詳しく説明しています。また、他の薬との飲み合わせや、アレルギー体質のある患者さまには、より慎重に処方を検討します。
服用上の注意点
- 持病のある方: 高血圧、心臓病、腎臓病のある方は、服用前に必ず医師に相談してください。特に甘草は、偽アルドステロン症を引き起こす可能性があり、これらの疾患を悪化させる恐れがあります。
- アレルギー歴のある方: 過去に薬や食べ物でアレルギー反応を起こしたことがある方は、医師に伝えてください。
- 妊娠・授乳中の方: 妊娠中または授乳中の方は、服用前に医師に相談してください。
- 長期服用の場合: 長期にわたって服用する場合は、定期的に検査を受けるなど、医師の指示に従ってください。
皮膚科の日常診療では、患者さまの全身状態や併用薬を詳細に確認することが治療のポイントになります。特に、漢方薬は体質や他の薬との相互作用も考慮する必要があるため、問診の際にはこれらの情報を丁寧に聞き取るようにしています。
甘草の過剰摂取は、偽アルドステロン症やミオパチーなどの重篤な副作用を引き起こす可能性があります。他の漢方薬や食品にも甘草が含まれている場合があるため、併用する際は必ず医師や薬剤師に相談してください[5]。
甘麦大棗湯の副作用について
甘麦大棗湯は比較的穏やかな作用を持つ漢方薬ですが、全く副作用がないわけではありません。特に、配合されている甘草の成分であるグリチルリチン酸は、過剰摂取や体質によっては、いくつかの副作用を引き起こす可能性があります。皮膚科の診察では、患者さまに副作用のリスクを十分に説明し、異変を感じた際にはすぐに受診するよう指導しています。
重大な副作用
- 偽アルドステロン症: 甘草の主成分であるグリチルリチン酸は、体内でアルドステロンと似た作用を持つことがあります。これにより、体内のカリウムが排出され、ナトリウムと水分が貯留しやすくなります。症状としては、むくみ、血圧上昇、頭痛、手足のしびれ、脱力感などが現れることがあります。特に高血圧や腎臓病の既往がある患者さまでは注意が必要です[5]。当院では、長期処方を行う際には、定期的に血圧測定や血液検査(電解質バランスの確認)を行い、早期発見に努めています。
- ミオパチー(横紋筋融解症): 偽アルドステロン症の進行により、低カリウム血症が重度になると、筋肉の障害であるミオパチーを引き起こすことがあります。具体的には、手足の脱力感、こわばり、筋肉痛、排尿困難などが現れることがあります。重症化すると横紋筋融解症に至ることもあり、腎臓に負担をかける可能性もあります[5][2]。このような症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診する必要があります。
その他の副作用
比較的頻度は低いものの、以下のような副作用が報告されています[5]。
- 消化器症状: 食欲不振、胃部不快感、吐き気、嘔吐、下痢など。
- 過敏症: 発疹、かゆみなど[4]。
これらの症状が現れた場合も、自己判断で服用を中止せず、医師や薬剤師に相談してください。特に皮膚症状が出た場合は、皮膚科医としてその原因が薬によるものか、他の要因によるものかを鑑別し、適切な対応をアドバイスします。当院では、患者さまが「体調がおかしい」と感じた際に、遠慮なく相談できるような雰囲気作りを心がけています。
ジェネリック医薬品について

甘麦大棗湯には、ツムラから販売されている「ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用)」の他にも、複数のメーカーから同等の効果を持つジェネリック医薬品が販売されています。ジェネリック医薬品は、先発医薬品(新薬)と同じ有効成分を同じ量含み、同等の品質、効き目、安全性が国によって認められた医薬品です。当院では、患者さまの希望や経済的な負担を考慮し、ジェネリック医薬品の選択肢についても説明する機会が多いです。
ジェネリック医薬品のメリット
- 薬価が安い: 先発医薬品に比べて開発費用がかからないため、薬価が安く設定されています。これにより、患者さまの医療費負担を軽減することができます。
- 選択肢の増加: 複数のメーカーから製造されているため、剤形や味、添加物などに違いがある場合があります。患者さまの好みに合わせて選択できる可能性があります。
ただし、漢方薬のジェネリック医薬品の場合、賦形剤や製造方法の違いにより、風味や溶けやすさなどが異なる場合があります。有効成分は同じですが、患者さまによっては「飲みやすさ」が治療継続に影響することもあるため、当院では患者さまの意見を尊重し、最適な選択をサポートしています。実際の処方では、患者さまから「ジェネリックでも効果は同じですか?」と質問されることがよくあります。その際には、有効成分は同じであること、しかし飲みやすさには個人差があることを丁寧に説明し、希望に応じて選択していただいています。
まとめ
甘麦大棗湯(ツムラ72)は、甘草、小麦、大棗の3つの生薬からなる漢方薬で、主に精神神経症状や小児の夜泣き、ひきつけなどに用いられます。心身の緊張を和らげ、穏やかな精神状態を促す効果が期待されます。服用に際しては、用法・用量を守り、特に甘草による偽アルドステロン症やミオパチーといった重大な副作用に注意が必要です。高血圧や腎臓病の既往がある方、他の薬剤を併用している方は、必ず医師に相談してください。ジェネリック医薬品も存在し、薬価を抑えつつ同等の効果が期待できます。効果の発現には個人差がありますが、症状の改善が見られた場合でも、自己判断で服用を中止せず、医師の指示に従うことが重要です。当院では、患者さま一人ひとりの症状や体質を考慮し、副作用のリスクと効果のバランスを見ながら、最適な治療法を提案しています。
お近くのグループクリニック
当グループでは、患者様の通いやすさに合わせて渋谷・池袋の2院を展開しております。お近くのクリニックをお選びください。
よくある質問(FAQ)
- E H McLaren, W D Alexander. Goitrogens.. Clinics in endocrinology and metabolism. 1979. PMID: 85506. DOI: 10.1016/s0300-595x(79)80013-4
- Nikolas Harbord. Novel nephrotoxins.. Advances in chronic kidney disease. 2011. PMID: 21531328. DOI: 10.1053/j.ackd.2010.12.001
- J R DiPalma, D M Ritchie. Vitamin toxicity.. Annual review of pharmacology and toxicology. 1977. PMID: 326160. DOI: 10.1146/annurev.pa.17.040177.001025
- R B Weiss. Hypersensitivity reactions.. Seminars in oncology. 1992. PMID: 1384149
- 甘麦大棗湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
