- ✓ 柴胡加竜骨牡蛎湯は、精神神経症状を伴う高血圧症や神経症、不眠症などに用いられる漢方薬です。
- ✓ 臨床経験上、不眠やイライラ、動悸などの症状を訴える患者さまに処方することが多く、精神的な安定に寄与するケースがみられます。
- ✓ 稀に間質性肺炎や肝機能障害などの重大な副作用も報告されており、体質や既往歴に応じた慎重な判断が必要です。
柴胡加竜骨牡蛎湯(ツムラ12)とは?

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、漢方医学における「柴胡剤(さいこざい)」の一種で、精神神経症状を伴う高血圧症、神経症、不眠症などに用いられる漢方薬です[5]。この処方は、精神的な興奮や不安を鎮め、身体のバランスを整えることを目的としています。当院の皮膚科外来では、ストレスによる皮膚症状の悪化や、かゆみで眠れないといった不眠を訴える患者さまに、西洋薬と併用して処方するケースも少なくありません。
柴胡加竜骨牡蛎湯の構成生薬と作用メカニズム
柴胡加竜骨牡蛎湯は、以下の11種類の生薬から構成されています[5]。
- サイコ(柴胡):炎症を抑え、精神的な緊張を和らげる作用
- ハンゲ(半夏):吐き気や嘔吐を抑え、精神安定作用
- ブクリョウ(茯苓):利尿作用、精神安定作用
- オウゴン(黄芩):炎症を抑え、鎮静作用
- タイソウ(大棗):滋養強壮、緩和作用
- ケイヒ(桂皮):身体を温め、血行を促進する作用
- ニンジン(人参):滋養強壮、疲労回復作用
- ボレイ(牡蛎):精神安定作用、動悸を鎮める作用
- リュウコツ(竜骨):精神安定作用、興奮を鎮める作用
- ショウキョウ(生姜):身体を温め、消化を助ける作用
- ダイオウ(大黄):緩下作用、清熱作用
これらの生薬が複合的に作用することで、自律神経の乱れを整え、精神的な緊張や不安、興奮を緩和すると考えられています。特に、竜骨と牡蛎は精神安定作用が強く、不眠や動悸、イライラといった症状に効果を発揮するとされています。近年では、男性のテストステロン低下に関連する症状の改善効果や[1],[3],[4]、動脈硬化の予防効果に関する研究も行われています[2]。
- 柴胡剤(さいこざい)
- 漢方医学における処方群の一つで、「少陽病(しょうようびょう)」と呼ばれる病期に用いられることが多いです。少陽病は、病気が体の表面から奥へと進行する途中の段階で、往来寒熱(寒気と熱感が交互に現れる)、胸脇苦満(胸から脇腹にかけての張りや苦しさ)、口苦、咽乾、目眩などの症状を特徴とします。柴胡剤は、これらの症状を改善し、身体のバランスを整える作用があるとされています。
どのような症状に効果が期待できますか?
柴胡加竜骨牡蛎湯は、精神的な不調や身体症状が複雑に絡み合った状態に効果を発揮することが期待されます。添付文書に記載されている効能・効果は「精神不安があって、動悸、不眠、いらだちなどがあるものの次の諸症:高血圧症、神経症、不眠症、小児夜泣き、便秘」です[5]。実際の臨床現場では、以下のような症状を訴える患者さまに処方することが多いです。
主な効能・効果
- 神経症・不安症: ストレスや環境の変化によって生じる精神的な不安感、イライラ、落ち着きのなさなどに用いられます。当院では、アトピー性皮膚炎や慢性湿疹の患者さまが、かゆみによる精神的ストレスや不眠を訴える際に、補助的に処方し、症状の緩和を図ることがあります。
- 不眠症: 精神的な興奮や不安が原因で寝つきが悪い、眠りが浅いといった不眠症状に効果が期待されます。特に、動悸を伴う不眠には有効な場合があります。外来で柴胡加竜骨牡蛎湯を使用した経験では、西洋薬の睡眠導入剤に抵抗がある患者さまや、軽度から中等度の不眠に対して、数週間程度で効果を実感される方が多い印象です。
- 高血圧症(精神不安を伴う場合): 精神的な緊張やストレスが原因で血圧が上昇するタイプの方に、精神安定作用を通じて血圧の安定に寄与することがあります。
- 小児夜泣き: 小児の夜泣きや興奮状態にも用いられることがあります。
- 便秘: 処方中のダイオウには緩下作用があるため、便秘を伴う場合に効果が期待されます。
これらの症状は、患者さまの体質や「証(しょう)」によって適応が異なります。漢方医学では、患者さま一人ひとりの体質や病状を総合的に判断し、最適な処方を選択します。実際の診察では、患者さまから「ストレスでイライラして肌荒れがひどくなった」「夜中に目が覚めてしまう」と質問されることがよくあります。このような場合、問診で精神状態や便通、食欲なども詳しく伺い、柴胡加竜骨牡蛎湯が適しているか判断しています。
柴胡加竜骨牡蛎湯の用法・用量と服用上の注意点

柴胡加竜骨牡蛎湯の用法・用量は、製品によって異なりますが、一般的には以下の通りです[5]。
標準的な用法・用量
通常、成人には1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与します。年齢、体重、症状により適宜増減されます。小児への投与量は、年齢や体重に応じて調整されます。
- 食前: 食事の約30分〜1時間前
- 食間: 食事と食事の間(食後2時間程度)
漢方薬は、空腹時に服用することで吸収が良くなると考えられています。ただし、胃腸が弱い方や、服用後に胃部不快感を感じる場合は、食後に服用することも可能ですので、医師や薬剤師にご相談ください。処方する際は、患者さまの生活リズムや他の薬との飲み合わせを考慮して、患者さまに合った用法を選択しています。
服用上の注意点
- 体質・既往歴の確認: 柴胡加竜骨牡蛎湯は、体力の充実した方(実証)に向いているとされています。虚弱体質の方(虚証)や、胃腸が弱い方、下痢しやすい方には不向きな場合があります。また、過去に薬でアレルギー症状を起こしたことがある方は、必ず医師に伝えてください。
- 妊娠・授乳中の服用: 妊娠中または授乳中の女性は、服用前に必ず医師に相談してください。特に、ダイオウが含まれているため、子宮収縮作用や骨盤内臓器の充血を促す可能性があり、流早産の危険性があるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましいとされています[5]。
- 他の薬剤との併用: 他の漢方薬や西洋薬を服用している場合は、相互作用の可能性があるため、必ず医師や薬剤師に伝えてください。特に、甘草を含む他の漢方薬との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があります。
- 長期服用の場合: 長期にわたって服用する場合は、定期的に医師の診察を受け、効果や副作用の有無を確認することが重要です。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、ダイオウ(大黄)を含んでいるため、便が軟らかくなる、下痢をするなどの症状が出ることがあります。また、ダイオウは子宮収縮作用があるため、妊娠中の方や妊娠の可能性のある方、授乳中の方は必ず医師に相談してください。
柴胡加竜骨牡蛎湯の副作用と対処法
柴胡加竜骨牡蛎湯は比較的安全性の高い漢方薬ですが、体質や体調によっては副作用が現れることがあります。副作用は頻度別に、重大な副作用とその他の副作用に分けられます[5]。
重大な副作用
頻度は不明ですが、以下の重大な副作用が報告されています。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
- 間質性肺炎: 咳、息切れ、発熱などが現れることがあります。特に、空咳が続く場合は注意が必要です。
- 偽アルドステロン症: 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛が現れ、徐々に強くなることがあります。むくみや血圧上昇も伴うことがあります。
- ミオパチー: 偽アルドステロン症の進行により、横紋筋融解症(筋肉の細胞が壊れる病気)が起こり、手足の脱力、筋肉痛、褐色尿などの症状が現れることがあります。
- 肝機能障害、黄疸: 全身のだるさ、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)などの症状が現れることがあります。当院の検査では、漢方薬を服用中の患者さまで、ごく稀に肝機能数値の軽度上昇を認めることがありますが、多くは一時的なものです。しかし、症状が続く場合は精密検査が必要です。
その他の副作用
以下の副作用が現れることがあります。症状が続く場合や悪化する場合は、医師や薬剤師に相談してください。
- 消化器系: 食欲不振、胃部不快感、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、便秘など。ダイオウの作用により、便が軟らかくなることがあります。
- 皮膚: 発疹、かゆみなど。
皮膚科の臨床経験上、漢方薬による皮膚症状は比較的少ないですが、アレルギー体質の方や敏感肌の方は注意が必要です。もし発疹やかゆみが出た場合は、すぐに服用を中止し、当院にご相談ください。診察の現場では、患者さまの体質や既往歴を詳しく確認し、副作用のリスクを最小限に抑えるよう努めています。
ジェネリック医薬品はありますか?

柴胡加竜骨牡蛎湯には、複数の製薬会社から販売されている医療用漢方製剤があります。これらは、一般的に「ジェネリック医薬品」という概念とは少し異なりますが、同様の処方内容を持つ製品として選択肢が存在します。
漢方製剤とジェネリック医薬品の違い
西洋薬におけるジェネリック医薬品は、先発医薬品と有効成分、含量、効能・効果、用法・用量が同じであると認められた後発医薬品を指します。一方、漢方製剤の場合、各メーカーが独自の製法で生薬を抽出し、顆粒や錠剤に加工しています。そのため、厳密には「ジェネリック医薬品」という表現は用いられず、同じ処方名を持つ「医療用漢方製剤」として複数の選択肢があるという認識が適切です。
例えば、ツムラから販売されている「ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒(医療用)」の他にも、クラシエやコタロー、オースギなど、様々なメーカーから「柴胡加竜骨牡蛎湯」が販売されています。これらの製品は、構成生薬や配合比率は基本的に同じですが、製造方法や添加物、顆粒の味や溶けやすさなどに違いがある場合があります。当院では、患者さまの好みや服用しやすさも考慮し、特定のメーカーの製品を推奨することがあります。
| 項目 | 西洋薬(ジェネリック) | 漢方製剤 |
|---|---|---|
| 有効成分 | 単一または少数の化学物質 | 複数の生薬の複合体 |
| 「ジェネリック」の概念 | 先発薬と同一成分・同等性保証 | 同名処方でもメーカーごとに製法が異なる |
| 品質・効果の同等性 | 生物学的同等性試験で確認 | 生薬の品質、抽出方法、添加物で差が生じる可能性 |
| 選択肢 | 先発品と複数のジェネリック | 複数のメーカーから同名処方が販売 |
いずれのメーカーの製品も、医師の処方箋に基づいて調剤されますので、ご自身の症状や体質に合ったものを医師と相談して選択することが重要です。皮膚科の日常診療では、患者さまが以前に服用した漢方薬の味や服用感についてお伺いし、より継続しやすい製品を提案することが治療のポイントになります。
柴胡加竜骨牡蛎湯に関する患者さまからのご質問
まとめ
柴胡加竜骨牡蛎湯は、精神的な不安や興奮、不眠、動悸、高血圧症、神経症、小児夜泣き、便秘といった幅広い症状に用いられる漢方薬です。複数の生薬が複合的に作用することで、自律神経のバランスを整え、心身の安定に寄与することが期待されます。当院の皮膚科診療においても、ストレス由来の皮膚症状や不眠の改善に補助的に活用しており、多くの患者さまから精神的な落ち着きや睡眠の質の向上といったフィードバックをいただくことが多いです。しかし、稀に重大な副作用も報告されており、服用に際しては医師や薬剤師による適切な診断と指導が不可欠です。ご自身の体質や症状に合った治療法を選択するためにも、気になる症状があれば、まずは専門の医療機関にご相談ください。
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よくある質問(FAQ)
- Akira Tsujimura, Shingo Takada, Yasuhiro Matsuoka et al.. Clinical trial of treatment with saikokaryukotsuboreito for eugonadal patients with late-inset hypogonadism-related symptoms.. The aging male : the official journal of the International Society for the Study of the Aging Male. 2008. PMID: 18570062. DOI: 10.1080/13685530802172529
- Dong-Wook Kim, Hwa-Jin Chung, Katsuya Nose et al.. Preventive effects of a traditional Chinese formulation, Chaihu-jia-Longgu-Muli-tang, on intimal thickening of carotid artery injured by balloon endothelial denudation in rats.. The Journal of pharmacy and pharmacology. 2002. PMID: 11999136. DOI: 10.1211/0022357021778691
- Akira Tsujimura, Norio Nonomura. Recent topics related to testosterone deficiency syndrome in Japan.. Asian journal of andrology. 2011. PMID: 21460860. DOI: 10.1038/aja.2010.132
- Seiwa Michihara, Noriyuki Shin, Shimpei Watanabe et al.. A Kampo formula, saikokaryukotsuboreito, improves serum testosterone levels of castrated mice and its possible mechanism.. The aging male : the official journal of the International Society for the Study of the Aging Male. 2013. PMID: 23339665. DOI: 10.3109/13685538.2012.755507
- 柴胡加竜骨牡蛎湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
