ヘルペス(単純疱疹)の原因と治療|医師が解説
- ✓ ヘルペスは単純ヘルペスウイルス感染症で、一度感染すると体内に潜伏し、再発を繰り返す特徴があります。
- ✓ 抗ウイルス薬の内服や外用薬が主な治療法であり、早期の治療開始が症状の軽減と治癒期間の短縮に重要です。
- ✓ 症状が出たら早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重症化や合併症の予防につながります。
ヘルペスの種類と症状とは?

ヘルペス(単純疱疹)は、単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus: HSV)によって引き起こされる感染症です。このウイルスは一度感染すると神経節に潜伏し、体の免疫力が低下した際などに再活性化して症状を繰り返す特徴があります。
単純ヘルペスウイルスには主に2つの型があり、それぞれ症状の出やすい部位が異なります。HSV-1は口唇ヘルペスなど上半身に、HSV-2は性器ヘルペスなど下半身に症状を引き起こすことが多いとされていますが、近年ではオーラルセックスの普及により、HSV-1が性器ヘルペスの原因となるケースも増えています[4]。
口唇ヘルペスの症状と特徴
口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によって引き起こされることが最も多いヘルペスです。唇の周りや口の中に小さな水ぶくれ(水疱)やただれができるのが特徴です。初感染時は症状が強く出ることが多く、発熱や倦怠感を伴うこともあります。再発時には、水ぶくれができる前にピリピリ、チクチクといった違和感や痒み、痛みを伴うことが一般的です。当院では、このピリピリ感を覚えた段階で受診される患者さまが多くいらっしゃいます。この初期症状の段階で抗ウイルス薬の内服を開始することで、水ぶくれの形成を抑えたり、治癒期間を短縮したりする効果が期待できます。
口唇ヘルペスは、接触感染によって広がるため、症状がある期間はタオルや食器の共有、キスなどを避けることが重要です。
性器ヘルペスの症状と特徴
性器ヘルペスは、主に単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)によって引き起こされますが、HSV-1による感染も増えています[4]。性器やその周囲、肛門周辺に水ぶくれや潰瘍(ただれ)ができます。痛みや痒みが強く、排尿時にしみるような痛みを感じることもあります。初感染時は、発熱、倦怠感、リンパ節の腫れなどを伴うことが多く、症状が重くなる傾向があります。当院の診察では、性器ヘルペスの初感染で「今まで経験したことのないような強い痛みで眠れない」と相談される患者さまも少なくありません。このような場合は、早期の抗ウイルス薬による治療が不可欠です。
性器ヘルペスは性行為によって感染が広がるため、症状がある期間は性行為を控えることが推奨されます。また、コンドームの使用は感染リスクを低減しますが、完全に防ぐことはできません。
その他のヘルペス感染症
単純ヘルペスウイルスは、口唇や性器以外にも様々な部位に感染することがあります。
- ヘルペス性角膜炎: 目に感染すると、目の痛み、充血、視力低下などを引き起こすことがあります。重症化すると失明に至る可能性もあるため、眼科での早期治療が必要です。
- ヘルペス性脳炎: 稀ではありますが、脳に感染すると意識障害やけいれんなどの重篤な症状を引き起こし、命に関わることもあります。
- 新生児ヘルペス: 出産時に母親から新生児に感染することがあり、皮膚症状だけでなく、脳炎や全身感染症を引き起こし、重篤な結果を招くことがあります[1]。
- カポジ水痘様発疹症: アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患がある人に単純ヘルペスウイルスが感染すると、広範囲に水ぶくれやただれが広がる重症型ヘルペスです。
ヘルペスの原因と感染経路とは?
ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)によって引き起こされ、主に接触感染で広がります。一度感染するとウイルスは体内の神経節に潜伏し、様々な要因で再活性化して症状を繰り返します。
単純ヘルペスウイルスは非常に一般的なウイルスで、世界人口の約60〜95%がHSV-1に感染していると推定されています[3]。多くの場合、幼少期に唾液などを介して感染し、症状が出ないままウイルスが体内に潜伏することもあります。
単純ヘルペスウイルスの特徴
単純ヘルペスウイルスは、DNAウイルスの一種で、感染した細胞内で増殖します。初感染後、ウイルスは神経細胞の軸索を伝って神経節(三叉神経節や仙骨神経節など)に到達し、そこで潜伏感染の状態に入ります。この潜伏状態のウイルスは、通常は症状を引き起こしませんが、特定の刺激によって再活性化し、再び神経を伝って皮膚や粘膜に到達し、水ぶくれなどの症状を引き起こします。
- 単純ヘルペスウイルス(HSV)
- ヘルペス(単純疱疹)の原因となるウイルス。HSV-1とHSV-2の2つの型があり、一度感染すると体内の神経節に潜伏し、免疫力の低下などで再活性化して症状を繰り返す特性を持つ。
主な感染経路
単純ヘルペスウイルスの主な感染経路は以下の通りです。
- 接触感染: ウイルスを含む水ぶくれの液や唾液、体液などとの直接的な接触によって感染します。口唇ヘルペスの場合、キスやタオルの共有、性器ヘルペスの場合、性行為が主な感染経路です。
- 母子感染: 出産時に産道を通る際に、母親が性器ヘルペスを発症していると新生児に感染する可能性があります。新生児ヘルペスは重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です[1]。
ウイルスは症状が出ている期間だけでなく、症状がない期間でも微量に排出されることがあるため、完全に感染を防ぐことは難しいとされています。
再発を誘発する要因
一度感染して体内に潜伏した単純ヘルペスウイルスは、以下のような要因によって再活性化し、症状を再発させることがあります。当院では、問診の際に患者さまのストレス状況や睡眠不足、疲労の有無を詳しく伺うようにしています。これらの要因を避けることが、再発予防に繋がるからです。
- ストレスや疲労
- 睡眠不足
- 風邪やインフルエンザなどの感染症
- 発熱
- 紫外線(日光)への曝露
- 外傷や手術
- 月経
- 免疫抑制剤の使用や免疫不全状態
これらの要因を避けることや、体調管理をしっかり行うことが再発予防には重要です。
ヘルペスの診断と治療法にはどのようなものがありますか?

ヘルペスの診断は、主に特徴的な皮膚症状の視診によって行われます。多くの場合、水ぶくれやただれの見た目から診断が可能ですが、症状が非典型的である場合や、他の皮膚疾患との鑑別が必要な場合には、ウイルス学的検査を行うこともあります。治療は抗ウイルス薬が中心となり、症状の軽減と治癒期間の短縮を目指します。
診断方法
ヘルペスの診断は、以下の方法で行われます。
- 視診: 医師が患部の水ぶくれやただれ、発赤などの症状を直接確認します。多くの場合、これだけで診断が可能です。
- ウイルス学的検査: 診断が難しい場合や、重症例、新生児ヘルペスなどの場合には、水ぶくれの内容物や病変部を綿棒で採取し、ウイルス抗原の検出、PCR法によるウイルスDNAの検出、ウイルス培養などが行われることがあります。
- 血液検査: ウイルスに対する抗体の有無を調べることで、過去の感染歴や初感染か再発かを判断する参考にすることがあります。
主な治療薬
ヘルペスの治療には、抗ウイルス薬が用いられます。これらの薬剤はウイルスの増殖を抑えることで、症状の悪化を防ぎ、治癒を促進します。治療は早期に開始することが非常に重要であり、症状が出始めてから48時間以内、特に水ぶくれができる前のピリピリとした段階での服用開始が最も効果的です[3]。当院では、再発を繰り返す患者さまには、初期症状を自覚した際にすぐに内服を開始できるよう、あらかじめ抗ウイルス薬を処方しておく(PIT療法)ことも検討します。
| 薬剤名 | 特徴 | 主な剤形 |
|---|---|---|
| アシクロビル | ヘルペス治療の基本薬。効果発現にはウイルスの酵素が必要[5]。 | 内服薬、外用薬、注射薬 |
| バラシクロビル | アシクロビルのプロドラッグ。吸収率が高く、1日服用回数が少ない[6]。 | 内服薬 |
| ファムシクロビル | ペンシクロビルのプロドラッグ。バラシクロビルと同様に吸収率が高い。 | 内服薬 |
| アメナメビル | 新しい作用機序の薬剤。ウイルスのDNA複製を阻害。 | 内服薬 |
- 内服薬: 症状が広範囲に及ぶ場合や重症の場合、再発抑制療法に用いられます。発症早期に服用を開始することで、症状の軽減や治癒期間の短縮が期待できます[2]。
- 外用薬: 口唇ヘルペスなどの局所的な症状に対して用いられます。内服薬と併用することもあります。
- 注射薬: 重症例や免疫不全患者、新生児ヘルペスなど、特に重篤なケースで用いられます。
再発抑制療法とは?
ヘルペスの再発を頻繁に繰り返す患者さま(例えば、年6回以上再発する場合)に対しては、再発抑制療法が検討されます。これは、低用量の抗ウイルス薬を毎日継続的に服用することで、ウイルスの再活性化を抑え、再発の頻度を減らす治療法です。当院でこの治療を開始された患者さまからは「再発の不安が減り、日常生活が送りやすくなった」という声をよく聞きます。この治療により、再発回数が大幅に減少し、生活の質が向上することが報告されています。
ヘルペスの症状は自然に治癒することもありますが、特に初感染時や症状が重い場合は、重症化や合併症を防ぐためにも早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。自己判断で市販薬を使用する前に、医師や薬剤師に相談してください。
ヘルペスの予防と日常生活の注意点
ヘルペスは一度感染するとウイルスが体内に潜伏するため、完全にウイルスを排除することはできません。しかし、再発を予防したり、他者への感染リスクを低減したりするための対策は可能です。日常生活における注意点を守り、健康的な生活を送ることが重要です。
再発予防のための生活習慣
ヘルペスの再発は、体の免疫力が低下した際に起こりやすいため、免疫力を維持・向上させることが予防の鍵となります。実際の診療では、患者さまに以下の点を意識するようお伝えしています。
- 十分な睡眠と休息: 睡眠不足や過労は免疫力を低下させる主要な要因です。質の良い睡眠を確保し、適度な休息をとることが大切です。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの取れた食事は、免疫機能を正常に保つために不可欠です。特にビタミンやミネラルを豊富に含む野菜や果物を積極的に摂取しましょう。
- ストレスの軽減: ストレスは免疫系に悪影響を及ぼします。趣味や運動、リラクゼーションなど、自分に合ったストレス解消法を見つけることが重要です。
- 適度な運動: 適度な運動は血行を促進し、免疫細胞の働きを活性化させます。ただし、過度な運動はかえって免疫力を低下させる可能性もあるため、無理のない範囲で行いましょう。
- 紫外線対策: 紫外線は口唇ヘルペスの再発を誘発することがあります。日焼け止めや帽子、マスクなどで唇や顔を保護することが推奨されます。
他者への感染を防ぐための注意点
ヘルペスは接触感染で広がるため、症状がある期間は特に以下の点に注意し、他者への感染リスクを低減することが重要です。診察の中で、患者さまには「症状がある間は、特に手洗いを徹底し、患部に触れた手で目をこすったり、他人に触れたりしないように」と指導しています。
- 患部に触れない: 水ぶくれやただれには直接触れないようにし、もし触れてしまった場合はすぐに石鹸で手を洗いましょう。
- タオルや食器の共有を避ける: 家族間であっても、タオル、食器、リップクリームなどの共有は避けましょう。
- キスや性行為を控える: 口唇ヘルペスの場合はキスを、性器ヘルペスの場合は性行為を、症状が完全に治まるまで控えることが感染拡大防止のために不可欠です。コンドームを使用しても完全に感染を防ぐことはできません。
- 乳幼児との接触に注意: 特に新生児や乳幼児は免疫力が低いため、ヘルペスウイルスに感染すると重症化するリスクがあります[1]。症状がある場合は、抱っこやキスを避け、手洗いを徹底するなど細心の注意を払いましょう。
まとめ

ヘルペス(単純疱疹)は、単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる感染症で、一度感染すると体内に潜伏し、免疫力の低下などで再発を繰り返す特徴があります。口唇ヘルペスや性器ヘルペスが一般的ですが、目の症状や重篤な合併症を引き起こすこともあります。
診断は主に視診で行われ、治療の中心は抗ウイルス薬です。症状が出始めたらできるだけ早く医療機関を受診し、抗ウイルス薬の内服や外用を開始することが、症状の軽減と治癒期間の短縮につながります。頻繁に再発を繰り返す場合には、再発抑制療法も有効な選択肢となります。
再発予防のためには、十分な睡眠、バランスの取れた食事、ストレス軽減、適度な運動など、免疫力を維持する生活習慣が重要です。また、他者への感染を防ぐため、症状がある期間は患部に触れない、タオルや食器を共有しない、キスや性行為を控えるなどの注意が必要です。ヘルペスに関する不安や症状がある場合は、一人で悩まずに医療機関にご相談ください。
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- Swetha G Pinninti, David W Kimberlin. Neonatal herpes simplex virus infections.. Seminars in perinatology. 2019. PMID: 29544668. DOI: 10.1053/j.semperi.2018.02.004
- Alexander Birkmann, Rob Saunders. Overview on the management of herpes simplex virus infections: Current therapies and future directions.. Antiviral research. 2025. PMID: 40154924. DOI: 10.1016/j.antiviral.2025.106152
- Antonio Mancini, Angelo Michele Inchingolo, Grazia Marinelli et al.. Topical and Systemic Therapeutic Approaches in the Treatment of Oral Herpes Simplex Virus Infection: A Systematic Review.. International journal of molecular sciences. 2025. PMID: 40943411. DOI: 10.3390/ijms26178490
- Suzanne M Garland, Marc Steben. Genital herpes.. Best practice & research. Clinical obstetrics & gynaecology. 2015. PMID: 25153069. DOI: 10.1016/j.bpobgyn.2014.07.015
- アシクロビル(アシクロビル)添付文書(JAPIC)
- バラシクロビル(バラシクロビル)添付文書(JAPIC)
