ケロイドができやすい体質・部位と原因|医師が解説
- ✓ ケロイドは傷の治癒過程で異常な線維組織が増殖する病態で、体質的な要因が大きく関与します。
- ✓ 胸部中央、肩、耳介、下顎部、恥骨上部などがケロイドの好発部位として知られています。
- ✓ 遺伝的要因や特定の遺伝子型、人種差がケロイドの発症リスクを高めることが示されています。
ケロイドとは?その基本的な定義とメカニズム

ケロイドとは、皮膚にできた傷が治癒する過程で、過剰に線維組織が増殖し、元の傷の範囲を超えて硬く盛り上がる良性の病変です。この現象は、皮膚の深い層である真皮の線維芽細胞が異常に活性化し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを過剰に産生することで引き起こされます。
通常の傷跡(肥厚性瘢痕)とケロイドは混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。肥厚性瘢痕は傷の範囲内に留まり、時間とともに自然に改善する傾向があるのに対し、ケロイドは傷の範囲を超えて拡大し続け、自然に治癒することは稀です。また、ケロイドはかゆみや痛みを伴うことが多く、患者さまの生活の質を著しく低下させる可能性があります。
ケロイドの発生メカニズムは複雑で、完全に解明されているわけではありませんが、遺伝的要因、炎症反応、免疫系の異常、機械的ストレスなどが複合的に関与していると考えられています。特に、線維芽細胞の異常な増殖とアポトーシス(プログラムされた細胞死)の抑制が、ケロイド形成の鍵となるメカニズムとして注目されています[2]。最近の研究では、ケロイド組織において好気性解糖(酸素が存在する状況下での糖代謝)への代謝スイッチが起こり、細胞のエネルギー産生が亢進していることが示唆されています[2]。このような細胞レベルでの変化が、ケロイドの異常な増殖に寄与していると考えられます。
- ケロイド
- 皮膚の傷が治癒する過程で、過剰な線維組織が増殖し、元の傷の範囲を超えて広がる良性の皮膚病変。かゆみや痛みを伴うことが多く、自然治癒は稀。
- 肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
- 傷の治癒過程で線維組織が過剰に増殖するが、元の傷の範囲内に留まる盛り上がった傷跡。時間とともに自然に改善する傾向がある。
ケロイドができやすい体質とは?遺伝的要因と人種差
ケロイドの発症には、体質的な要因が非常に大きく関与しています。これは、同じような傷を受けてもケロイドになる人とならない人がいることから明らかです。特に、遺伝的素因がケロイド形成に深く関係していることが多くの研究で示されています。
遺伝的要因はどの程度影響するのか?
ケロイドは家族内で発生するケースが多く、遺伝的な傾向が強いことが知られています。両親のいずれか、または両方がケロイド体質である場合、その子供もケロイドを発症するリスクが高まると考えられています。具体的な遺伝子レベルでの研究も進んでおり、特定のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子型がケロイドの発症と関連していることが報告されています。例えば、中国の漢民族を対象とした研究では、特定のHLAクラスI遺伝子型(HLA-A0101、HLA-A0201、HLA-B3501など)やHLAクラスII遺伝子型(HLA-DRB11501など)がケロイドの発症リスクと関連があることが示されています[3][4]。これらの遺伝子型を持つ人は、ケロイドを発症しやすい体質である可能性が指摘されています。
当院の診察では、初診時に「家族にケロイドで悩んでいる人がいる」と相談される患者さまも少なくありません。問診の際に患者さまの家族歴を詳しく伺うようにしており、これにより、ケロイドの再発リスクや治療方針を検討する上で重要な情報としています。遺伝的要因は、ケロイドの治療戦略を立てる上でも考慮すべき重要な要素です。
人種差とケロイドのリスク
ケロイドの発症には人種差も存在します。一般的に、アフリカ系、アジア系、ヒスパニック系の民族では、白人系民族に比べてケロイドの発生頻度が高いことが知られています。これは、これらの人種が持つ遺伝的背景がケロイド形成に関与している可能性を示唆しています。例えば、アジア人を対象とした研究では、複数の部位にケロイドが発生する「多発性ケロイド」の患者さまが一定数存在し、その臨床的特徴が検討されています[1]。当院でも、特にアジア系の患者さまから、瘢痕の盛り上がりや痒みについて相談を受けるケースをよく経験します。
また、皮膚の色素沈着に関わる遺伝子など、皮膚の特性を決定する遺伝子がケロイドの感受性に影響を与えている可能性も指摘されています。しかし、人種差はあくまで統計的な傾向であり、個々の患者さまの体質は多様であるため、人種だけでケロイドの有無を判断することはできません。
| 項目 | 肥厚性瘢痕 | ケロイド |
|---|---|---|
| 発生範囲 | 元の傷の範囲内 | 元の傷の範囲を超えて拡大 |
| 自然治癒 | 時間とともに改善する傾向あり | 稀、悪化することが多い |
| 症状 | かゆみ、痛みは比較的軽度 | 強いかゆみ、痛み、引きつれ感 |
| 再発リスク | 低い | 治療後も再発しやすい |
ケロイドができやすい部位はどこ?好発部位とその理由

ケロイドは体のどの部位にも発生する可能性がありますが、特にできやすいとされる「好発部位」が存在します。これらの部位は、皮膚の張力がかかりやすい、炎症が起きやすい、あるいは特定の解剖学的特徴を持つといった理由から、ケロイド形成のリスクが高いと考えられています。
ケロイドの主な好発部位
ケロイドの好発部位として、以下の場所が挙げられます。
- 胸骨部(胸の中央): 心臓手術の傷跡やニキビ跡からケロイドが発生しやすい部位です。呼吸や腕の動きによって常に皮膚に張力がかかるため、ケロイドが拡大しやすいと考えられます。
- 肩・上腕部: 肩の関節の動きや、重いものを持ち上げるなどの日常動作で皮膚にストレスがかかりやすい部位です。特に、BCG接種痕やニキビ跡からケロイドが発生することがよくあります。
- 耳介(耳たぶ): ピアスによる傷が原因でケロイドが発生することが非常に多い部位です。耳たぶは軟骨が近く、血流が豊富であることも影響している可能性があります。当院では、ピアスによる耳介ケロイドの患者さまが特に多くいらっしゃいます。
- 下顎部・首: ひげ剃りの傷やニキビ跡、手術痕などから発生することがあります。首の動きによって皮膚が常に引っ張られるため、ケロイドが成長しやすい環境です。
- 恥骨上部(帝王切開の傷跡など): 腹部の皮膚は張力がかかりやすく、特に帝王切開の傷跡はケロイド化しやすいことで知られています。
なぜ特定の部位にできやすいのか?
これらの部位にケロイドができやすい主な理由は、以下の要因が複合的に作用しているためと考えられています。
- 皮膚の張力(メカニカルストレス): 関節部や体幹部など、日常的に皮膚が引っ張られたり、動かされたりする部位では、傷の治癒過程で線維芽細胞が過剰に刺激され、コラーゲン産生が促進されると考えられています。
- 炎症の持続: ニキビや毛嚢炎など、慢性的な炎症が起こりやすい部位では、炎症反応がケロイド形成を促進する可能性があります。
- 血流の豊富さ: 耳たぶなど、血流が豊富な部位では、傷の治癒に必要な細胞や因子が過剰に供給され、ケロイドの増殖を促す可能性が指摘されています。
実際の診療では、これらの好発部位にできた傷に対しては、特に慎重な経過観察と早期の介入が重要になります。当院では、ケロイド体質が疑われる患者さまが好発部位に傷を負った場合、傷が治癒する段階からシリコンシートやステロイドテープなどを用いた予防的治療を提案し、ケロイドの発生を抑えるよう努めています。
ケロイドの発生原因は?傷の種類とその他の誘因
ケロイドは、体質的な素因がある上で、何らかの皮膚への刺激や損傷が引き金となって発生します。一口に「傷」といっても、その種類は多岐にわたり、それぞれがケロイド形成のリスクとなり得ます。
ケロイドを引き起こす主な傷の種類
ケロイドのきっかけとなる傷は、日常的によく見られるものから、医療行為に伴うものまで様々です。
- 手術痕: 外科手術の切開痕は、ケロイドの主要な原因の一つです。特に、胸骨部や肩の手術痕はケロイド化しやすい傾向があります。当院では、手術後に「傷跡が盛り上がってきた」「かゆみがひどい」とおっしゃる方が多く、早めの受診を推奨しています。
- 外傷: 切り傷、擦り傷、やけどなどもケロイドの原因となります。特に深い傷や、治癒に時間がかかる傷はリスクが高いです。
- ニキビ・毛嚢炎: 炎症性のニキビや毛嚢炎が重症化し、治癒後にケロイドとなることがあります。特に、胸部や背中のニキビ跡はケロイドになりやすいです。
- ピアス・タトゥー: 耳たぶのピアス穴は、ケロイドが非常にできやすい部位です。タトゥーも針による皮膚への損傷が原因でケロイドを誘発することがあります。
- 予防接種痕: BCG接種痕など、特定の予防接種の跡がケロイドになることがあります。
傷以外の誘因や悪化因子はあるのか?
傷の種類だけでなく、ケロイドの発生や悪化には、以下のような要因も関与していると考えられています。
- 炎症の持続: 傷が治癒する過程で、感染やアレルギー反応などによって炎症が長引くと、線維芽細胞の活性化が促進され、ケロイドのリスクが高まります。
- 機械的刺激: 傷口への摩擦、圧迫、引っ張りなどの物理的な刺激は、ケロイドの成長を促す悪化因子となり得ます。特に、好発部位で述べたように、皮膚の張力がかかる部位ではこの影響が顕著です。
- ホルモンバランス: 思春期や妊娠期など、ホルモンバランスが変動する時期にケロイドが発生・悪化しやすいという報告もありますが、そのメカニズムはまだ十分に解明されていません。
ケロイド体質の方は、小さな傷でもケロイド化する可能性があるため、皮膚に傷ができた場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な処置や予防策について相談することが重要です。特に、好発部位にできた傷は注意が必要です。
ケロイドの予防と早期発見の重要性とは?

ケロイドは一度形成されると治療が難しく、再発のリスクも高いため、予防と早期発見が非常に重要です。特にケロイド体質が疑われる方や、好発部位に傷ができた場合は、積極的に予防策を講じるべきです。
ケロイドを予防するための具体的な対策
ケロイドの予防には、傷の適切な処置と、傷跡への継続的なケアが鍵となります。
- 傷の適切な処置: 傷ができた場合は、清潔に保ち、感染を防ぐことが最も重要です。深い傷や広範囲の傷は、速やかに医療機関を受診し、適切な縫合や処置を受けるようにしましょう。
- シリコンシート・テープの使用: 傷が閉じた後、早期からシリコンシートやシリコンゲルシート、ステロイド含有テープなどを貼付することで、傷跡への物理的な圧迫と保湿効果により、ケロイドの発生を抑制することが期待できます。当院では、手術後の患者さまには、傷の治癒状況に合わせてこれらの予防策を積極的にご案内しています。
- ステロイド注射: ケロイドのリスクが高いと判断される場合、傷跡に少量のステロイドを注射することで、炎症を抑え、線維芽細胞の過剰な増殖を抑制する効果が期待できます。
- ピアス・タトゥーの検討: ケロイド体質の方は、ピアスやタトゥーを避けることが賢明です。どうしても行いたい場合は、事前に医師と相談し、リスクを十分に理解した上で行うべきです。
早期発見が治療に与える影響とは?
ケロイドは、小さいうちに発見し、早期に治療を開始することで、その後の拡大を防ぎ、症状の悪化を抑えることが可能です。初期のケロイドは、赤みを帯びてわずかに盛り上がっている程度であることが多く、かゆみや痛みも比較的軽度です。この段階で治療を開始することで、より効果的に病変の進行を食い止めることができます。
実際の診療で、患者さまが「最近、傷跡が赤く盛り上がってきて、かゆみがある」と、ケロイドの初期症状を訴えて来院されるケースでは、ステロイド注射や圧迫療法などの治療を比較的早期に開始できます。治療を始めて数ヶ月ほどで「かゆみが減って、盛り上がりも少し落ち着いてきた」とおっしゃる方が多いです。ケロイドが大きく成長し、硬くなってしまうと、治療に時間がかかり、複数の治療法を組み合わせる必要が出てくることもあります。そのため、少しでも気になる傷跡があれば、早めに皮膚科を受診し、専門医の診断を受けることが重要です。ケロイドの治療法
まとめ
ケロイドは、皮膚の傷が治癒する過程で異常な線維組織が増殖し、元の傷の範囲を超えて硬く盛り上がる病変です。その発症には、遺伝的要因や人種差といった体質的な素因が大きく関与しており、特にアフリカ系やアジア系の民族で発生頻度が高い傾向にあります。胸部中央、肩、耳介、下顎部、恥骨上部などが好発部位として知られており、これらの部位は皮膚の張力がかかりやすい、炎症が起きやすいといった特徴があります。
手術痕、外傷、ニキビ、ピアスなどが主な誘因となり、傷の治癒過程での炎症の持続や機械的刺激も悪化因子となり得ます。ケロイドは一度形成されると治療が難しいため、予防と早期発見が極めて重要です。傷の適切な処置、シリコンシートやステロイドテープによる予防、そして気になる傷跡があれば早期に医療機関を受診することが、ケロイドの進行を抑える上で不可欠となります。
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よくある質問(FAQ)
- Tae Hwan Park, Ji Hae Park, Michael H Tirgan et al.. Clinical implications of single- versus multiple-site keloid disorder: a retrospective study in an Asian population.. Annals of plastic surgery. 2015. PMID: 24681623. DOI: 10.1097/SAP.0b013e3182a2b537
- Temwani Chalwa, Maribanyana Lebeko, Relebohile Matobole et al.. Enhanced bioenergetic cellular activity with metabolic switch to aerobic glycolysis in Keloid and Folliculitis Keloidalis Nuchae.. Archives of dermatological research. 2024. PMID: 38878082. DOI: 10.1007/s00403-024-03038-5
- W-S Lu, W-Y Zhang, Y Li et al.. Association of HLA-DRB1 alleles with keloids in Chinese Han individuals.. Tissue antigens. 2011. PMID: 20522201. DOI: 10.1111/j.1399-0039.2010.01509.x
- Wen-Sheng Lu, Li-Qiong Cai, Zai-Xing Wang et al.. Association of HLA class I alleles with keloids in Chinese Han individuals.. Human immunology. 2010. PMID: 19932885. DOI: 10.1016/j.humimm.2009.11.004
