ケロイド・肥厚性瘢痕の原因と治療法|医師が解説
- ✓ ケロイドと肥厚性瘢痕は、皮膚の損傷後に過剰な線維組織が形成される病態です。
- ✓ 遺伝的要因や体質が発症に大きく関与し、適切な診断が治療の第一歩となります。
- ✓ 治療法は多岐にわたり、症状や部位に応じてステロイド注射、レーザー治療、手術などが選択されます。
ケロイドと肥厚性瘢痕は、皮膚に傷ができた後に組織が過剰に増殖し、盛り上がった状態になる病変です。これらは見た目の問題だけでなく、かゆみや痛み、引きつれなどの症状を引き起こし、日常生活に影響を与えることがあります。適切な診断と治療を受けることで、症状の改善や再発予防が期待できます。
ケロイドの基礎知識と症状

ケロイドの基礎知識と症状について解説します。ケロイドは、皮膚の傷が治る過程で過剰な線維組織が産生され、元の傷の範囲を超えて広がる良性の腫瘍です。
ケロイドとは?肥厚性瘢痕との違い
ケロイドと肥厚性瘢痕はどちらも傷跡が盛り上がる状態ですが、その性質には明確な違いがあります。
- ケロイド
- 傷の範囲を超えて周囲の正常な皮膚にまで広がり、時間とともに増大する傾向があります。自然治癒は稀で、再発しやすい特徴を持ちます。遺伝的要因や体質が強く関与すると考えられています。
- 肥厚性瘢痕
- 傷の範囲内に限局して盛り上がる傷跡です。通常は時間とともに自然に改善する傾向がありますが、完全に平坦になるまでには数ヶ月から数年かかることもあります。関節部など皮膚の張力がかかる部位にできやすいとされています。
この二つの鑑別は治療方針を決定する上で非常に重要です。当院では、初診時に傷跡の状態を詳細に観察し、患者さまの既往歴や家族歴を詳しく伺うようにしています。特に、過去に同様の傷跡ができた経験があるか、ご家族にケロイド体質の方がいるかといった問診は、診断の重要な手がかりとなります。
| 特徴 | ケロイド | 肥厚性瘢痕 |
|---|---|---|
| 病変の広がり | 元の傷の範囲を超えて拡大 | 元の傷の範囲内に限局 |
| 増大傾向 | 時間とともに増大する傾向 | 通常は自然に改善する傾向 |
| 再発性 | 再発しやすい | 比較的再発しにくい |
| 発生部位 | 胸部、肩、耳垂、下顎部など | 関節部など皮膚の張力がかかる部位 |
| 体質的要因 | 強く関与 | あまり関与しない |
ケロイド・肥厚性瘢痕の主な原因は何ですか?
ケロイドや肥厚性瘢痕の発生には、様々な要因が複合的に関与しています。主な原因は、皮膚に生じた損傷に対する異常な治癒反応です。
- 外傷・手術:切り傷、やけど、手術の縫合跡、予防接種の跡、ピアス穴などがきっかけとなることがあります。特に、皮膚に張力がかかる部位や深い傷はリスクが高いとされます。
- 炎症:ニキビの炎症、毛嚢炎(もうのうえん)、水痘(みずぼうそう)の跡なども原因となることがあります。慢性的な炎症が線維芽細胞の活性化を促すと考えられています。
- 体質・遺伝的要因:ケロイドは遺伝的素因が強く関与すると言われています。特定の遺伝子変異や人種(特にアフリカ系、アジア系の人々)で発生頻度が高いことが報告されています[3]。家族にケロイドの人がいる場合、発症リスクが高まります。
- サイトカインの異常:傷の治癒過程で放出される成長因子やサイトカイン(特にTGF-βなど)の過剰な産生が、線維芽細胞の増殖やコラーゲン合成を促進し、ケロイド形成につながると考えられています[4]。
当院の診察では、患者さまが「小さなニキビ跡がどんどん大きくなって、かゆみも出てきた」と相談されるケースも少なくありません。特に胸部や肩にできたニキビ跡がケロイド化する傾向があり、早期の介入が重要であることを実感しています。
ケロイド・肥厚性瘢痕の症状と好発部位
ケロイドや肥厚性瘢痕は、見た目の変化だけでなく、様々な症状を伴うことがあります。
- 盛り上がりと硬さ:皮膚が赤みを帯びて盛り上がり、触ると硬くゴムのような感触があります。
- かゆみ・痛み:特に活動性のケロイドでは、強いかゆみやヒリヒリとした痛みを伴うことがよくあります。
- 引きつれ(拘縮):関節近くにできた場合、皮膚の引きつれによって関節の動きが制限されることがあります。
- 色素沈着:赤みが引いた後も、周囲の皮膚より色が濃くなることがあります。
好発部位としては、胸部中央、肩、耳垂(ピアス跡)、下顎部、恥骨部などが挙げられます。これらの部位は皮膚に張力がかかりやすく、ケロイドが発生しやすいと考えられています。当院では、患者さまが「ピアスを開けてから耳たぶがどんどん大きくなってきた」と来院されることが非常に多く、耳垂のケロイドは比較的若い世代に多く見られる特徴があります。
ケロイドの治療法

ケロイドの治療法は、その大きさ、発生部位、症状、患者さまの体質によって多岐にわたります。単一の治療法で完治が難しい場合も多く、複数の治療法を組み合わせる集学的治療が推奨されています[2]。
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療選択肢にはどのようなものがありますか?
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療は、保存的治療と外科的治療に大別されます。患者さまの状態を総合的に評価し、最適な治療法を選択することが重要です。
1. 保存的治療
- ステロイド局所注射:ケロイド内に直接ステロイドを注射する方法です。ステロイドには炎症を抑え、線維芽細胞の増殖を抑制する作用があります。盛り上がりやかゆみ、痛みの軽減に有効で、多くの患者さまに第一選択として用いられます。数週間に一度の頻度で複数回行うことが一般的です。治療を始めて2〜3ヶ月ほどで「かゆみが楽になった」「盛り上がりが少しずつ平らになってきた」とおっしゃる方が多いです。
- シリコンゲルシート・テープ:患部にシリコン製のシートやテープを貼付し、圧迫と保湿を行うことで、ケロイドの軟化や平坦化を促します。長期的な使用が推奨されます。
- 圧迫療法:弾性包帯や専用の装具を用いて患部を継続的に圧迫することで、血流を阻害し、線維芽細胞の活動を抑制します。特に広範囲のケロイドや肥厚性瘢痕に有効です。
- レーザー治療:色素レーザー(Vビームなど)は、ケロイドの赤みを軽減し、かゆみや痛みを和らげる効果が期待できます。また、一部のレーザーは線維芽細胞の活性を抑制する可能性も示唆されています[1]。当院では、特に赤みが強く、かゆみを訴える患者さまにレーザー治療を提案することがあります。
- 内服薬:抗アレルギー薬やかゆみ止め、漢方薬などが症状緩和のために処方されることがあります。
2. 外科的治療
- 切除手術:ケロイドを外科的に切除する方法です。ただし、ケロイドは切除後に再発しやすい特徴があるため、手術単独では行われず、術後に放射線治療やステロイド注射などの補助療法と組み合わせることが一般的です[2]。
- 放射線治療:手術でケロイドを切除した後、再発予防のために患部に放射線を照射します。線維芽細胞の増殖を抑制し、再発率を低下させる効果が報告されています[3]。
実際の診療では、患者さまのケロイドが「活動性」であるかどうかが治療方針を決定する上で重要なポイントになります。赤みが強く、かゆみや痛みが強い場合は活動性のケロイドと判断し、ステロイド注射やレーザー治療を優先的に検討します。一方で、盛り上がりはあっても症状が落ち着いている場合は、圧迫療法やシリコンシートによる経過観察を選択することもあります。
ケロイドの治療は長期にわたることが多く、根気が必要です。自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従って継続することが重要です。また、手術を検討する際は、再発リスクと術後の補助療法の必要性について十分に理解しておく必要があります。
治療期間と治療効果はどのくらい期待できますか?
ケロイドや肥厚性瘢痕の治療期間は、病変の大きさや種類、選択される治療法、患者さまの反応によって大きく異なります。
- ステロイド注射:数ヶ月から1年以上の治療期間を要することがあります。定期的な通院が必要ですが、多くのケースでかゆみや痛みの軽減、盛り上がりの平坦化が期待できます。
- シリコンゲルシート・圧迫療法:数ヶ月から年単位で継続することで、徐々に効果が現れます。
- レーザー治療:数回から十数回の照射が必要となる場合があります。赤みの軽減や症状緩和に有効ですが、ケロイドそのものを完全に除去する効果は限定的です。
- 手術+放射線治療:手術後、数日〜数週間の間に放射線治療を複数回行います。再発予防効果は高いとされていますが、完全に再発をゼロにすることは難しい場合があります。
治療効果については、ケロイドが完全に消失することは難しい場合もありますが、かゆみや痛みといった症状の緩和、盛り上がりの平坦化、赤みの軽減など、生活の質の向上につながる改善は十分に期待できます。特に、早期に治療を開始するほど、より良い結果が得られる傾向があります。処方後のフォローアップでは、副作用の有無だけでなく、治療を継続できているか、効果の実感があるかを確認するようにしています。「以前より目立たなくなったから、もう治療しなくてもいいかと思った」とおっしゃる患者さまには、再発リスクについて丁寧に説明し、根気強く治療を続けることの重要性をお伝えしています。
まとめ

ケロイドと肥厚性瘢痕は、皮膚の損傷後に生じる過剰な線維組織の増殖であり、それぞれ異なる特徴を持つ病態です。ケロイドは元の傷の範囲を超えて広がり、再発しやすい体質的な要因が強く関与します。一方、肥厚性瘢痕は傷の範囲内に留まり、自然に改善する傾向があります。原因は外傷、手術、炎症などが挙げられ、遺伝的素因も重要です。症状としては、盛り上がり、硬さ、かゆみ、痛み、引きつれなどがあります。治療法は、ステロイド局所注射、シリコンゲルシート、圧迫療法、レーザー治療といった保存的治療と、手術と放射線治療を組み合わせた外科的治療があり、患者さまの状態に合わせて最適な方法が選択されます。治療は長期にわたることが多く、医師との連携のもと、継続的な治療が症状の改善と再発予防に繋がります。
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- Rei Ogawa. The Most Current Algorithms for the Treatment and Prevention of Hypertrophic Scars and Keloids: A 2020 Update of the Algorithms Published 10 Years Ago.. Plastic and reconstructive surgery. 2022. PMID: 34813576. DOI: 10.1097/PRS.0000000000008667
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